上位魔導師になりたくて!・最終試験【10】
何にしても……ルインの危険予知能力の高さを加味すると、やっぱり最短ルートを進むのは得策ではない……と言う事になる。
しかし、そうなると……うーむぅ。
「なぁ、ルイン? こっちのルートはどうかな?」
私は地図とにらめっこしつつも、ルインに違うルートを推奨して見せた。
このルートは少し遠回りになる。
……と言うか、当初の予定していたチェックポイントですらない。
この地図に印されてあるチェックポイントは、パッと見る限りで十個程度はある。
あの面倒臭がりな魔導師組合が、ここまでのチェックポイントを用意して来るのは意外ではあったが、チェックポイントに向かう順番は特になく、順不同で進んでも全く問題はない。
よって、当初の予定された場所ではないチェックポイントから進んでも、なんら問題がないと言う事になる。
最初に選んだチェックポイントは、飽くまでも最短ルートを進むと一番近いと言うだけで、そのルートを使わないとなれば話が大きく変わって来る訳だな。
「こっちですか……うぅん……そうですね」
私の提示したルートをじっと見据えたルインは、神妙な顔になってから私達へと答えた。
「百ある数多の罠がある見たいですが、最初のルートから比べれば天国の様なルートですね。こっちにしましょうか」
にこやかな笑みを作ってから言う。
……いや、待て?
「百ある数多の罠……って、まずくないか? それ、明らかにおかしくないか? 言葉的にもおかしくないか? 百なの? 数多なの?」
百あると具体的に言ってるんだから、その後に数多と言う曖昧な表現はおかしい。
……いや、まぁ……そうなんだけど、本当の所はそんなのどうでも良い。
要はトラップ地獄が待っていると言ってる訳なのだから。
「具体的には百程度だけど、実は良く分からないから数多と表現しました! どうです? これで解決しましたか?」
「そっちは解決しなくても良いから! ちょっとネタ的な意味でボケただけだから!」
何故かドヤ顔になって言うルインに、私は思わず語気を荒げてツッコミを入れた。
「ご、ごごご……ごめんなさい……そ、そんなに怒らないで下さい……」
刹那、ひゅんっ! っと、風を切る勢いでメイスの背中に隠れると、身体を小さく縮こまらせ……更に両腕で頭を抱えながら、蚊の鳴く様な声音を私に吐き出して来た。
もはや、臆病と言うレベルすら逸脱している気がするんだが……?
思わず、私の目が呆れ眼になっていた時、フラウが努めて愛想の良い声をルインに出して来た。
「本当の問題はそこじゃなくてね? ルインさん? 罠が山の様に設置されているルートが天国に見えちゃうって事は……最初のルートはどんだけ地獄だったの?……って事が知りたいかな? 漠然としてても良いからさ?」
「そ、そうですね……先程も述べた通り、曖昧な物しか感じ取る事が出来ないのですが……」
そこまで言ったルインは、真剣な顔になって……再び口を動かす。
「死にます」
「よし! そこはダメだ! チキンセンサーがそう言ってる!」
ガンッッッッ!
真剣な顔で死を予告したルインの言葉に、メイスが即行で叫ぶと……腹を立てたルインに、物凄い勢いでぶん殴られていた。
もしかして、普段から殴られ続けたせいで、頭が鶏レベルになってしまったんじゃ……?
そうだとすると、実に不憫なヤツなのかも知れない。
「じゃあ、このルートで決まりだな?」
「は、はい……そ、そうですね……」
相変わらず尻窄みの語気ではあったが、はっきりと肯定の台詞を口にしていたルイン。
彼女の性質から加味すれば、自己表示に値する台詞を口にしている時点で、絶対の自信があると考えても良いだろう。
ルインの性質を知らないヤツからすれば、全く自信のない声質と態度にしか聞こえないし、見えないだろうが。
「じゃあ、行きましょうか!」
ルインの言葉を耳にして、フラウが愛想に特化した笑みを作ってルインへと声を吐き出した。
「そ、そうですね。行きましょうか……あ、でも? トラップが山の様にあるので気を付けて下さい。なるべく私が先頭に立って、トラップを解除して行くスタンスを取る予定ではあるのですが、それでも万が一を考えて、慎重に行動して欲しいです」
「うん! OK! 任せて! これでもトラップ解除は得意なんだから! リダが!」
神妙な表情で注意を促すルインに、フラウが無い胸を張って自信たっぷりに私を指差した。
「私かいっっ!」
どうして他力本願な台詞を言ってるのに、そこまで堂々と威張ってられるんだよっ!
フラウの厚顔さに呆れつつ、私達はトラップ地獄コースを選択して行くのだった。




