上位魔導師になりたくて!・最終試験【9】
「い、いきなり何すんだよっっ!?」
直後、杖で殴られた後頭部を擦りながら、ルインへと非難めいた台詞を声高に叫ぶメイスがいた。
「メイスが私の事を悪く言うからでしょう?」
だが、私達に見せる姿とは裏腹に、ハキハキとした声でぷんすか怒るルインが、しっかりとメイスに反論をしてみせた。
……うん?
これはあれか?
極度の人見知りでもあるのか?
「なぁ、ルイン? お前はあれか? あんまり面識のない相手とは上手に喋る事が出来ない質だったりするのか?」
「すいません……大体合ってます」
軽い口調で尋ねると、ルインは弱腰の態度で私にコクリと頷きを返して来た。
「……そ、そうなんだ~。あはは……えっとね? 無理言うかも知れないけどさ? 今日の私達は仲間じゃない? だから、出来ればね? うん、そう! 本当になるべくで良いから、仲良く会話してくれたら嬉しいかなぁ……って、私は思うんだけど、どうかな?」
直後、相手がコミュ障レベルの話下手と言う事を知ったフラウが、かなぁぁぁぁり腰を低くしてから、お願いする形でルインへと言ってみた。
余談になってしまうが、フラウはすこぶる人付き合いが上手だ。
それは、調子が良いとか八方美人だとか、そう言う訳ではなく、相手を思いやる気持ちが人一倍強く……かつ、器用に相手の気持ちを汲んで来るからだ。
自分よりも年上や目上の人には相応の礼儀を見せて会話をするし、子供を相手にしてもしっかりと面倒を見る。
後輩等に関してもやっぱり同じで、然り気無くフォローしたり助けたりもするので、姉御肌的な気質なんかも備わっていたりする。
つまり、すこぶる社交的なのだ。
他方のルインはこの真逆とも言える性質でもある。
上位魔導師の条件と言うか、上位魔導師らしさの一つに社交性があったと思うんだが……こんな状態で大丈夫なんだろうか?
ふと、下世話な心配なんぞをする私がいた頃、
「は、はい! 上位魔導師の多くは、幅広い人脈と高い社交性を両方持ってますしね……が、頑張ってそうなれる様に努力します!」
ルインは、真剣な顔をして両手コブシをギュッ! っと握り締めながら叫んでいた。
……でも、足はガクガクと揺れていた。
こんなんで、本当に大丈夫なのか?
「さっきは、ルインのヤツに頭を殴られたから、話が途中になったけど……ともかく、さ? こんな調子だから、危険予知能力には人一倍敏感なんだ」
本当に下世話と思いながらも、やっぱり心配してしまう私がいた時、メイスが嘆息混じりになって、さっきの説明の続きに当たる部分を私達へと答えて来た。
……なるほど。
「それは凄い説得力だな、メイス。とっても分かり易い説明だったぞ」
メイスの言葉を耳にした所で、私は納得した。
ルインの魔力と言うか、魔導師としての能力はずば抜けて高い。
ここに関しては、もう間違いなく高いと私も認めるしかないないのだが……それだけ能力の高いルインであるのなら、自分の性格にマッチした魔法と言うか……特殊な魔法を自分で作り出してしまう程度の事は、当たり前の様にやって来る。
例えば、人より素早く空を飛びたい欲求を持つ魔導師がいたとしよう?
そして、この魔導師の実力がとても高かったとすると……文字通り誰よりも飛行能力に特化した魔法を発動させる事が出来る。
既存にない魔法であっても、レベルの高い魔導師ならオリジナルの魔法を自分で作り出してしまう事など日常茶飯事だ。
これと同じ事がルインにも当てはまる。
ルインの場合は、とんでもなく臆病な性格をしている高レベルの魔導師であった為、自分で危険予知に特化した魔法を作り出してしまった訳だ。
どんだけ臆病なんだよと言いたい。
そこはさて置き。
「わ、私……そ、そんな意気地無しじゃ……ないもん……」
ルインは不満そうな顔をして反論を試みるも、私とフラウの注目を浴びている事に気づいた途端に、声を尻窄みにして行った。
やっぱり臆病じゃないか。
……てか、私達はルインに何をしたんだ? と、少し物申したい気持ちにすらなるぞ……。
「そっかぁ……そうなると、ルインさんの言う嫌な予感は、私達にとって回避した方が良い……って事だけは間違いないんだね」
「ああ、断言するよ! ルインの臆病センサーは抜群さ! 百発百中で当たる! まさにチキンセンサー万歳!」
ガンッッッッ!
「あだぁっっ!」
納得混じりに答えたフラウに、意気揚々と頷くメイスがいた所で、不本意で目尻から涙を流していたルインが、メイスの後頭部をまたもや殴っていた。
……さっき、同じやり取りがあったばかりだと言うに……メイスの学習能力は鶏並みなんじゃないだろうか?




