上位魔導師になりたくて!・最終試験【5】
見れば、後ろには相棒のメイスも居る。
『少し遅くはありましたが、組合が提示した時間に遅刻はしておりませんので、問題はありません。謝る必要はありませんよ』
ルインとメイスの二人がやって来たのをみて、ファイナルタマコは穏和な声音を吐き出した。
ここは、ファイナルタマコの言葉が正しい。
一応、八時に集合的な話しになっていたのだが、現在時刻は七時五十五分なので、まだ遅刻はしていない。
「は、はい! すいません! ありがとうございます!」
穏和に語るファイナルタマコの言葉にルインは、あたふたしながらも再び頭を下げて来た。
礼儀正しいと言うか……腰が低すぎると言うか……ともかく気弱な雰囲気を無駄に漂わせている感じだった。
時折、精神が壊れて狂人になってしまうのがタマに傷だが。
ここらに関しては私もルインと言う人間をしっかりと把握していないので、多くを語る事は言えないのだが……恐らく、普段のルインは穏やかで気が弱く、いつもオドオドしている意志薄弱な女の子なのだろう。
これが天然で出来てしまえるのは凄い。
正直、私には無理だな……なんぞと、心の中で妙な感心なんぞをしている中、ルインの隣にいたメイスが彼女の代わりにファイナルタマコへと口を開いた。
「すまないね、試験精霊さんよ? もしかしたら分かってるかも知れないけど……普段のコイツは人見知りな上に臆病と言うか気が弱くて、上手に会話する事が出来ないんだよ。だから、相棒の俺が代役として試験内容を聞こうと思うのだが、大丈夫かい?」
『ええ、構いませんよ? 今回の試験は先程、胸無しコンビには述べているのですが、内容は同じになります。この山で二十四時間生き延びて下さい』
ファイナルタマコは穏やかな表情でルインとメイスへと答えた。
胸無しコンビをしれっと言うのはやめて欲しい所だった。
「…………え?」
ルインは驚きの顔になる。
途端に顔を蒼白にさせた。
「なるほど……最終試験らしい難関だな」
他方のメイスも、幾ばくか眉を寄せつつも口を動かしてみせた。
彼からすれば、最終試験らしい超難関試験だと感じていたのだろう。
試験とか関係なく、単純に趣味でテントを張って一夜を明かした私達の事は……言わないで置こう。
心の中で苦笑する私がいる中、ファイナルタマコが再び口を開いて来た。
『本日の最終試験を受ける二組がどちらも揃ったので、基本ルールと言うか試験詳細部分の一部を説明します。尚、更に試験の詳細が知りたい場合は別途用紙を渡しますので、そちらで確認して下さい。質問も承りますので、気になる点がありましたら、直接私に聞いて下さっても結構ですよ?』
周囲にいる四人……昨日、二次試験を受けて合格した私達に向かって説明するファイナルタマコを前に、一同はこぞって頷きをみせた。
前回の章末で少しだけ述べているから、分かっている方も居るとは思うのだが、ルイン・メイスの二人も無事に二次試験をパスしていた。
尚、最終得点は95点だった。
私達との戦いでは上限の50点を技能点だけで叩き出していたルインとメイス達だったが、次の戦いでは技能点が加点5しか付与されなかった。
理由は簡素な物だ。
やる気をなくしたデブコンビとグダグダな戦いになってしまい、技能点が貰えなかったのだ。
余談だが、あまりにもグダグダした戦い方をすると減点される事があるらしい。
技能点は、勝敗に関係なく素晴らしい戦い方をすれば上限でもある50加点される場合もあるのだが、逆に不甲斐ない戦い……おおよそ上位魔導師として相応しくないと試験官に判断されてしまった場合は減点対象にすらなり得るとの事。
最大で減点40まである為、例え勝利しても技能点で40点の減点を喰らうと、総合得点は0と言う事になり……戦いに勝利しても不合格が確定してしまう。
……そうか、なるほど。
あの二次試験には、こう言う不合格の選定もされていたのか。
そうなると、場合によっては全員不合格もあり得る。
結果的に言うと、一次試験と同じ条件で試験をしていた訳か。
最低でも一組は必ず合格するシステムだと勘違いしていた私であったが、ここに来てそこに勘違いがあった事に気付いた。
……もう、終わった試験だから関係ないけどな!
閑話休題。
『では、基本を説明します。二十四時間生き延びれば、加点50されます。なので、合格には最低でも二十四時間生き延びる必要があります。この50得点をベースに、二十四時間内に起こしたあなた方の行動が加点ないし減点対象となり、試験の合否が決定します』
ふむふむ、なるほど。
二十四時間、山へと籠る事に成功すれば、百点満点中の半分が加点される関係上、まずは途中でリタイアする事なく最後まで完走する事が必要……と、こう言う事になるのか。




