【5】
いたたたぁ………。
何気に、この学園に入学して始めてダメージを受けた気がする。
一応、見えない防御壁もあったんだが、一瞬で貫通してしまった。
通常の十倍の攻撃力になってるからと言うのもあるのかも知れないが、そこを差し引いてもかなりの威力だ。
……どうやら、油断してたのは私だったみたいだ。
「ふ……ふふ………あ~はっはっ!」
良いねぇ……良いよ。
「どうしたの? 頭がおかしくなった?」
「違うし!」
マジでむかつく女だなお前はっ!
「お前の性格は嫌いだが……お前の強さは、嫌いじゃないよ」
なんてか、久しぶりにアツくさせてくれる。
面白いじゃないか!
なら、見せてやろうじゃないか。
これが、会長だ!
龍の呼吸法【極】
「……なっ!」
ユニクスの顔色が変わった。
そりゃそうだろう。
「お前に出来て、私に出来ない事はない。むしろ、その上位スキルすら発動可能だ」
龍の呼吸法には上位がある。
今の私のがそれだ。
完全な上位互換で、基本的には上昇率が異なるだけだ。
だが、その上昇率は軽く下位である、龍の呼吸法の倍以上。
当然、超自動治癒能力も大幅に上昇する。
そして、何より……このスキルは、補助の上掛けが可能だと言う事だ。
つまるに、だ?
超攻撃力上昇魔法レベル99
超防御力上昇魔法レベル99
超身体速度上昇魔法レベル99
「……はぁ? な、なによそれ! 聞いてないわ!」
当然だろう? 言った覚えはないからな。
そもそも、言う義理もないがな。
「お遊びはここまでにしよう」
「く……こ、このっ!」
明らかに焦りの色を見せるユニクス。
その証拠に速攻で攻撃をして来た。
だが、私は軽く身体を反らすだけで簡単によけて見せる。
ついでにお土産程度の軽いジャブを何発か返してやった。
「ぶぁぉわっ!」
全て顔面にクリーンヒット。
この攻撃で思いきり吹き飛び、顔から床に倒れて行った。
「……こ、こんな……ことが」
口と鼻から血を流し……しかし、龍の呼吸の効果によって直ぐに傷口が消え去る。
だが、その痛みと受けた屈辱は消えない。
むしろ、龍の呼吸法で身体だけ勝手に自己回復してしまう分、余計に何発も私に殴られるだけに過ぎなかった。
「か……『彼』の予見では、私はお前をここで殺すと出ていたのに」
そう言えば、そんな事を言っていたな。
どうして、そんな的はずれな予見が生まれたのか知らないが、少なくとも、蟻が象を倒す位の奇跡が起きない限り、それはない。
「その『彼』とやらの予見が外れたんだろう? いや、違うか」
思うに、仮にそう言う予見があったとして、それが当たると言う根拠があるのか?
きっと、答えはノーだ。
強いて言えば、今まで外した事がないのだから、今回も絶対に当たる。
この程度の事だったのかも知れない。
更に言うのなら、嘘の予見をユニクスに焚き付け、私と戦わせた可能性だってある。
本当は違う予見が出ていたのに、それを口に出さず……勝てると嘘を吐いた可能性だってある。
飽くまでも可能性の範疇内だが、私なりの推測が正しいのなら、こうなる。
「お前は、『彼』とやらの捨て駒だったんだろうよ」
「違うっ!」
全力で否定して来た。
「あいつは……『彼』は、私を裏切る様な、そんな真似など……」
「その根拠は?」
「そ……それは………」
ないのか。
それなら、もう確定の域だ。
「本当なら、もう少しお前との戦いを楽しみたいと思っていた。久しぶりに強い相手と戯れたいと、本気で思った」
別に嫌味ではないんだが、私レベルになると、相応の遊び相手が限りなくゼロに等しい。
強いて言えば、そこの解説席でう~う~言ってるシズ辺りなら、私を大いにアツくしてくれるだろう。
だが、彼女はもう会長として冒険者協会の指導者をしている。
そこを言えば、私もそうなるのだが。
既に冒険者として好き勝手に暴れる立場を卒業し、次の若手を育てる立場にいるからだ。
故に、好き勝手出来る場面は極めて少ない。
退屈なんだ……本当はな?
けれど、好き勝手する人間にさ? ついていきたいと思う人間なんて、ほとんどいないのが現実さ。
だから、今回のユニクスとの戦いは私なりの良い退屈凌ぎになったんだ。
だから、もう少し退屈凌ぎに付き合って貰おうとも思った。
だけど………。
「どうやら、早く真相を聞かないと、まずいと分かった」
お前が捨て駒であるのなら、な?
恐らく、もう狙っているかも知れないよ。
私の命ではなく、ユニクス……あんたの命をな。




