上位魔導師になりたくて!・二次試験【22】
それだけに、初の惨敗を喫したのが……今だったのかも知れない。
……そして。
「……悔しいと言う感情が、こんなにも切ない物だって言うのを初めて知ったよ」
ルインは独りごちる様に私へと答えた。
この台詞が全てを物語っていると……私は訳もなく思えた。
才能のある人間は、ある意味で不幸だ。
何故なら、悔しいと言う感情を持てるだけの経験をする事が、常人と比較すれば皆無にも等しいからだ。
才能のある人間は、ある意味で幸運だ。
常人がどんなに努力しても到達する事の出来ない高みまで到達する事が可能なのだから。
ただ、多くの才能を持つ天才は、前者のままで終わってしまう事が多い。
それだけ周囲の人間よりも優秀で、負ける事を知らず……場合によっては悔しい経験など一切しないまま、一生を終えてしまうからだ。
悔しい思いを抱く事なく、現状の自分に満足して……生涯を閉じてしまう。
これはこれで、決して不幸な事ではなく、その当人にとっては幸運な人生であったかも知れない。
けれど、それは本当に充実した良い人生と言えるのか?
私は思う。
良い人生ではあったかも知れないが、充実した人生などではないと。
もしかしたら、もっと努力すれば……より精進すれば、更なる頂きに登る事が出来たのかも知れないのに。
現状で満足している天才からすれば、全くの大きなお世話的な物でしかない。
そんな事は当然、分かってはいる。
だけど、やっぱり……思う。
折角貰ったその才能……勿体ないとは思わないのか?
万民が持っている訳ではない……それこそ、数多の人間がいる中で何万人に一人の割合で……あるいは、それ以下の確率かも知れない貴重かつ稀少な才能を、せっかく与えられたと言うのに……そのままで良いのか?
その才能を、もっと有意義に活かすべきではないのか?
そこに必要な物は、やっぱり『もっと努力しないといけない!』と言う気持ちだ。
この気持ちを手っ取り早く持つのに必要なのが、やっぱり悔しさなんじゃないかな? と、思う。
悔しいと言う気持ちは、色々なマイナス的な出来事から引き起こされる。
物事の失敗。
勝負の敗北。
凡人、常人であるのなら、こんなのは日常茶飯事だ。
きっと、子供の頃から色々な失敗をして来て、悔しい思いをして来ただろう。
そして、心身共に強くなっていくのだ。
……が、天才はこうならない。
そもそも失敗はバカのやる事だと思っている。
……恥ずかしい事だと思っている。
勝敗のある物で負ける者は、単なる弱者だと考える。
……やっぱり恥ずかしい事だと考える。
そして、大抵は『恥ずかしい事』を強烈に拒否する。
まぁ、これは天才、凡人関係なくそうなるとは思うが……天才であればあるだけ、強烈に拒否反応を起こす。
そして、その考えに誤りがある事に気付けないのだ。
ズバリ言おう。
失敗は決して恥ずかしい事ではない。
負ける事は恥ずかしい事ではない。
失敗するからこそ、次こそ失敗しない様に努力するし、敗北で悔しい思いをしたからこそ、次こそは勝つぞと全力で精進する。
よって、今日よりも強い自分が生まれるのだ。
常人であれば、これの繰り返しを行い、互いに切磋琢磨し合う事など常識レベルではあるが、これが天才になってしまうとそうは行かない。
この相互関係を成立させるだけの相手が早々存在しないからだ。
だから、思うのだ。
ルインは……この天才は幸運だった……と。
ここで悔しい思いを……その気持ちを持った事は、明日の活力になると、私は考えたのだ。
今は、負けてしまい……ちょっとばかり格好の悪い自分であるかも知れない。
しかし、ここから精一杯努力して、今よりずっと頼もしい存在になり得る事は可能だ。
そっちの方が格好良い。
今は格好悪くとも。
未来の自分は、格好良くなれる。
今の悔しさを覚える事が出来なかった自分より……ずっとずっと、格好の良い自分へと成長する事が出来るだろう。
だから、私は言う。
ちょっと下世話かな?……とは思ったけど、ルインに口を開いた。
「今度、また勝負しよう。日時とかは決められないけど……そうだな? いつか……ルインが私を越えたと思えた時……その時は、私を訪ねて来い」
答えた私は柔和な笑みを満面に作ってから、ルインに自分の冒険者カードを渡した。
「……これは?…………えっ!?」
私に渡された冒険者カードを軽く見てから、ルインは愕然とした顔になっていた。
間もなく、鳩が豆鉄砲を喰った様な勢いでパクパクと口を動かして見せる。




