上位魔導師になりたくて!・二次試験【16】
発動された瞬間、フラウの周囲に本物の太陽が召喚される。
陽炎魔法の場合は疑似太陽なのだが、上位陽炎の場合は本物の太陽が召喚されるとてつもない魔法だ。
常人であるのなら、この時点で発動対象者は蒸発している。
一瞬にして着火点クラスまで、周囲の温度が上昇するからだ。
だが、そこはそれだ。
龍の呼吸法!
魔導防壁!
フラウだって、上位魔導師になる為に難関を乗り越えてこの実施試験までやって来ている。
即座に補助スキルと防御魔法を発動させる事で、上位陽炎魔法による太陽熱から身を守って見せた。
……が、それだけでは、上位陽炎魔法を完全に防ぎ切る事は出来ない。
上位陽炎魔法が持つ本当の恐ろしさは……これからだ。
陽炎が渦を作り、高速で捻れて行く。
この時点で、炎と言う名の紐みたいな状態になっているのだが……この紐は、ゴムの様な特性を持っている。
つまり、ゴムを高速で捻っている状態が、今の段階だ。
ポイントはここにあった。
ゴムを限界まで捻りに捻ると、ゴムは当然切れてしまう。
その瞬間……ゴムは今まで捻っていたエネルギーを一瞬で放出するのだ。
まさに爆発的とも言える、驚異の反作用エネルギーは、対象を一瞬にして塵にしてしまう程の超魔法!
陽炎魔法は、基本である陽炎魔法の時点で既に上位魔法なので、この魔法の上位になる上位陽炎魔法は、名前こそ『上位』と表現されているが、実際は超魔法に分類される。
まさに……必殺魔法だ。
やってくれる……今からでもフラウのヤツを全力で庇いに行くか……?
こんな事を考える私がいたのだが……しかし、フラウは私に対してジェスチャーの様な物を見せる。
多分、ニュアンス的にはこんな感じだ『手助けしなくても良い!』と!
そうか……。
フラウも、実力で……自分の意思で、この試験を突破したかったんだな!
その意思やヨシ!
何とも天晴れな姿に、私もグッジョブをしてやった。
……直後、フラウがハテナ顔になって、なにかを叫ぼうとしていたみたいだが、気のせいだろう。
あんな、正々堂々としたメッセージを、ボディランゲージで見せてくれたフラウなのだ!
ここは、フラウの戦いっぷりを、しっかりと目に焼き付けてやろう!
思った私は、真剣な目のまま戦況を見据える。
そう言えばフラウは、この魔法……上位陽炎魔法を、以前にも一度ばかり受けていた。
学園の文化際で開かれたメインイベント・剣聖杯での一戦がそれだ。
その時は、ルミがフラウへと上位陽炎魔法を発動させていた記憶がある。
そうなれば……フラウのヤツは、上位陽炎魔法の対抗手段を考えていたかも知れない!
なるほど!
流石はフラウだ!
お前は天才だっ!
さぁ……見せてみろ?
私に、お前の天才たる由縁とも言える、その勇姿をっ!
ゴォォォォッッッ!
紐上になった太陽の炎がいよいよ切れる限界点まで到達した。
果たして。
プツッッ……
中央の辺りで切れた太陽の炎は、
キュォォォォォォォッッッ!
とんでもない勢いで逆回転し……炎の竜巻の様な状態を作り、
ドォォォォォォンッッッ!
その一瞬後に大爆発を起こした。
起こしたんだけど……だ?
あれ?……フラウさん?
アンタ、もしかして……やられてないよな?
しばらくして。
ひゅるるるるる~っ!
大爆発の中から、墜落した飛行機みたいな音を出して飛んで来るフラウの姿が。
そんなフラウは、見事にまっ黒焦げ。
まぁ、あれだけの熱量と炎の竜巻と大爆発の三点セット受けて、黒焦げになっただけで済んでる時点で凄い事ではあったんだが、
ズボッッッ!
「ふぎゅっ!」
落下する勢いで飛んで来たフラウは、私の眼前に落ちて来ては、そのまま地面に上半身を埋める勢いで突き刺さっていた。
普通に考えれば生きているとは思えない様な勢いで地面に突き刺さっていたのだが、生きている事だけは間違いない。
何故なら、その直後……地面に突き刺さった上半身を必死で引き抜こうともがいていたからだ。
…………何やってんだか。
ズボォッ!
仕方がないから、私が引き抜いてやった。
「ぷはぁっ! はぁはぁ……ああ! 死ぬかと思った!」
いや……普通なら、百回は死んでるぞ?
お前の生命力は、どんだけ逞しいんだよ?
「……マ、マジかよ……」
他方、まっ黒焦げながらも戦闘不能にまでは陥らなかったフラウを見て、メイスは愕然とした顔になっていた。
「…………嘘」
他方のルインなど、死人染みた勢いで顔が蒼白になっている。
「直撃だったのに……魔導防壁は張ると思ったけど……それだけで、簡単に防げる魔法なんかじゃ……ないのに」
独りごちる様に答えたルインは、ワナワナと身体を震わせた後、
「ふ……ふふふ……あははははっっっ!」
何故か、狂った様に笑い始めた。




