上位魔導師になりたくて!・二次試験【10】
それに、連戦となればバフを掛け直す必要はない。
RPGとかのゲームであれば、能力上昇系の魔法は戦闘終了と同時に消滅または無効化してしまったりもするが……これはゲームの戦闘ではない。
当然ながら、発動された後は戦闘が終了してから以降も効果が消える事はなかった。
私が発動させている補助スキルの方は、発動させっぱなしだと己の精神を消耗させてしまうので、デブを吹き飛ばした直後に解除してはいるが、補助魔法の方は大抵効果が消えるまではずっと有効だ。
特に私が発動している超補助魔法は、効果時間もそれなりに長く、一度魔法が発動すれば軽く二~三時間は効果が切れる事がない。
補助魔法を発動させてから、まだ十分程度しか経過していないので、まだまだ掛け直す必要はなさそうだ。
まぁ、だからして。
「連戦なのか。手間が省けて結構な事だな」
私は現況を好意的に受け止めていた。
「私は、もう少し時間と言うか……心の準備とか欲しいなぁ……なんて、思うけどね」
他方のフラウは苦笑いのまま、私へとぼやきを口にして行く。
前回の戦いで最高加点を取り、一気に二次通過が近くなったとは言え、油断は出来ないだろう。
さっきのデブ供の様な、散々な負け方をすれば加点が30を切ってしまう可能性だってある。
そうなれば、合格目前まで来て置いて、まさかの不合格となってしまう。
もちろん、そんなのはゴメンだ。
フラウとしても、心を落ち着かせたいので、少し時間を貰いたいと言うのが正直な気持ちであったのかも知れない。
知れないが、だ?
「今、乗ってる所だろ? このまま、ノリと勢いで押しきれそうな勢いを持ってる……って、思わないか?」
「それは思うよ?……思うけど、そう言う油断が一番の大敵だと思うから、しっかりと心を落ち着かせるだけの時間が欲しいんじゃないの」
「やれやれ……慎重も、そこまで来ると病気だな」
「病気じゃないから! リダが楽観的過ぎるんだよ! 脳内にいつも向日葵が咲いてる人とは違うんだよっ!」
脳内に向日葵……って、おい!
「それはあれか? 私の頭はお花畑と言う事か? 向日葵畑が咲いてるって事か? ビールのつまみに最高って意味かっ!?」
「誰もそこまで言ってないじゃないのっ!? そもそも、ビールのおつまみとか、意味不明だからっ!」
フラウが、ある意味で正論と言えたツッコミを入れた頃、二人の青年が私達の前にやって来た。
……ん?
これが、今回の相手か?
そう言えば、一戦目の対戦相手を決める抽選会の時にも居た様な気がする。
ただ、デブ二人のインパクトが余りにも強すぎて、もう一人のコンビと言うか……目の前にいる二人の印象が皆無に近い状態だった。
「……そ、その……お手柔らかに」
二人いた青年の内、一人の男が私に向かって声を震わせながら答えていた。
何故か、早くも腰が引けていた。
全体的に見て、一般的な男子から比較すると背が幾分か低い物の……それ以外は、整った顔をしている。
きっと、シャキッとしていれば好青年って感じの男なんだろう。
……シャキッとしていれば、なんだが。
「おいおいルイン……気持ちは分かるけど、戦う前から弱腰になっててどうする?……見ろ、向こうさんもちょっと驚いているぞ?」
ワンテンポ置いて、妙にオドオドしていた青年へと、もう一人の男が声を掛けていた。
恐らく整った顔をしていた爽やかな笑顔が似合いそうな青年の名前……ルインだったか? まぁ、彼の相棒なんだろう。
そんなルインの相棒なのだろう青年は、緩やかに目を細めてから自己紹介をして来た。
「まずは自己紹介させて頂こう。俺の名前はメイス。主に攻撃魔法を担当している……んで、隣のヤツが今回の試験者でもあるルイン。こっちは回復系を中心にした魔法が得意だ」
ほうほう。
これは……また、なんとも潔い。
私としては、ビックリする事しか出来ない状況だった。
何せ、これから対戦する相手に、わざわざ自分の手の内を教えているのだから。
もしかして、私達はバカにされているのだろうか?
相手に手の内をバラしても尚、余裕で勝ってやるよ……と、無言で語っているのかも知れない。
あるいは、ただのバカか?
どちらにせよ、私達に対する接し方としては悪くない。
さっきのデブ供に爪の垢でもプレゼントしてやりたいまでに紳士的だ。
「私の名前はリダだ。隣にいる試験者のフラウの相棒として試験に参加している。得意魔法は……」
そこまで私が言った所で、落ち着いた表情で自己紹介をして来た青年……メイスは言う。
「超炎熱爆破魔法だろ? さっき見せて貰ったよ……正直、炎系と爆破系の最上位魔法だって滅多に見れないのに、まさかのその複合系最上位をアッサリ使って来るなんてね……本当に驚かされたよ」
答えたメイスは、ちょっとだけ苦笑していた。




