【3】
「じゃあ、だ? 私がそれなりのハンデをルミに上げれば、少しは真面目にやってくれるか?」
「え? 本当!」
ルミは瞳を爛々に輝かせる。
ハンデ貰って心から喜ぶヤツも珍しい。
「ね? ね? どんなの?」
「そうだなぁ……じゃあ、私は右手だけ」
「えええええ~っ! それじゃ勝てないよぅ~」
それでも勝てないのかよっ!
本気で口を尖らせて来たルミに、少し呆れてしまう私がいた。
「じゃあ、どんなのがいいんだ?」
「そだねぇ~。んじゃ、リダは右手の人指しだけで魔法禁止。これで手を打とう!」
いやいやいや!
バカなのルミ姫様!
そんなので勝って嬉しいの?
普通、もうそれハンデってレベルじゃないよっ!
「はぁ……」
私は重い吐息を吐く。
正直、どうしてそこまでアホな条件を平然と口にするのかと、小一時間程度文句を言ってやりたい所ではある。
あるんだけど、だ。
「良いだろう。それでちゃんと本気でやってくれるのなら、それで行こう」
ただし、だ?
「その条件なら、流石の私も本気でやるぞ」
「……う」
再び口ごもった。
そこからまたもや頭を下げて来る。
「ごめんなさい。やっぱり勝てそうにないので降参させて頂きます」
あほかいっっ!
「だから、戦う前から諦めるんじゃないよ!」
「だって……だってぇ………うぇーん!」
とうとう泣き出してしまった。
闘技場からもヤジが飛ぶ。
「心理戦とか汚いぞ!」
「そうだ! お前もここの選手なら真面目に戦えっ!」
「そうよ! 私のルミちゃんを泣かすなんて! 今すぐ私が慰めて、そして私を抱いて!」
やっぱり一人おかしいヤツがいたけど、ヤジが飛んで来た。
てか、本気で最後のレズはルミに近づけては行けない気がして来た。
「……はぁ」
私は重い吐息を再び吐き出した。
「分かった。それじゃこうしよう。私は手も足も使わない。そしてルミが一方的に上位炎熱魔法を撃っても良い」
「……え?」
ソッコーで泣き止んだルミがキョトンとした顔になった。
てか、アンタ泣き終わるの早いな!
何となく、嘘泣きだったんじゃないかと勘ぐってしまいたくなるが、取り合えずは置いといた。
「それを私に直撃させる事が出来たら、ルミの勝ち。私は素直に降参させてもらう」
「え? えええ!」
ルミは思いきり目を白黒させていた。
「そ、そんなんで、私の勝ちになるの? 流石にそれじゃ私が勝っちゃうよ?」
「……ほ~」
言ったな。
「じゃあ、そのハンデで行こう。手を抜くんじゃないぞ?」
まぁ、ハンデとか言うレベルではないと思うんだがな。
「よ、よぉ~し!」
ようやく、勝ち目があると思ったのか、少しやる気になったルミ姫様は、そこで魔導式を頭の中で紡ぎ始める。
それにしても、ここまでしないとやる気にならないのかよ、お前は……。
軽く腕を組ながら、私はルミの放つ超魔法を見ていた。
そして。
「すぅ………」
……と、息を吸い込む。
頬を一杯に膨らませ、まるでクルミが頬に入ったリスみたいな状態にする。
その瞬間、ルミの魔法が完成した。
「本当に手も足も使ったらダメだからね! 魔法もだよっっ!」
良いから、サッサと撃ちなさいよっ!
思わず、口で叫ぶ所だったが、それをやったら口に吸い込んだ空気が漏れてしまうからやめにした。
なんでかって?
それは、この上位炎熱魔法を、
「てぃっっ!」
「ふぅぅぅぅぅぅっっっ!」
一息で押し戻す為さ!
魔法が発動し、本物の太陽の炎が虚空から姿を現した直後、私は炎に向かって溜め込んでいた息をおもむろに吹き掛けた。
その瞬間、ねじ曲がる予定だった炎が息の風圧に押され、そのまま術者であるルミへと飛んで行く。
「え? ええええっ!」
必死で炎壁魔法で防御しようとするが、いきなりの事過ぎて完全におさえる事は出来なかった。
「……けほけほ……な、なんなのよ、もうっ!」
……お?
「お~。耐えたか。やるなぁ、ルミ」
「やるなぁ……じゃないよ! 手も足も出さないって約束でしょ! もちろん、魔法も!」
「出してないだろ? その条件で私はお前の上位炎熱魔法を跳ね返した」
「……どうやってよ?」
凄い不思議そうな顔のルミ姫。
何だ? 見てなかったのか?
「息で飛ばした」
「チートでしょ、それ!」
チートじゃないからっ!
「ルミ……自分の想像を逸した相手を見たら、全部チートにするのは良くない。世の中にはそう言う格段強いヤツもいるんだ」
「そんなのはリダ見てるから、知ってるよぉぉぉっ! だから、降参するって最初から言ってたじゃないかぁっ! うわぁ~んっ!」
再びルミは泣き出した。
なんか、いじめっ子になった気分だった。




