上位魔導師になりたくて!・二次試験【7】
一見すると、相手を同情している様に見えるが……当然ながら、そんな訳がない。
そもそも、こんな事を同情して欲しいとは思わないし、むしろ薮蛇レベルの労りになってしまう事だろう。
もちろん、分かっててやっているのだから……まぁ、始末に置けない。
「おい、パイロ。お前……そこのペチャパイに、何をそこまでいきり立ってるんだ? あんなクソガキの言う事に、一々目くじらなんか立ててたら世話ないぞ?」
直後、デブ男の相方なのだろう、もう一人の男が声を掛けて来た。
こっちもデブだった。
否……違う。
物凄いデブだった。
さっきのが『来場所は幕内を狙っているのですか?』ならば、こいつは『来場所は横綱昇進ですか?』って感じのデブだ。
リアルでの相撲は、太っていれば横綱になれるほど甘い世界などではないが、飽くまでも抽象的に物を言うと、そんな感じだった。
「ペ……ペチャパイッ!?」
男の言葉を耳にして、フラウがスドーンッ! って感じの衝撃を受けていた。
そこで衝撃受けるんじゃないよ。
白目になって、この世の終わりみたいな顔してるんじゃないよ!
そこの自称ポッチャリと同じレベルになってしまうじゃないか!
「うん? ああ、すまない……本人を前に言う言葉じゃなかったな?」
デブの隣にいたスーパーデブは、白目になったフラウに穏やかな笑みを向けてペコリと頭を下げていた。
一応の礼儀と言う物を見せている様にも見えるが……当然、これも単なる嫌味から来ているのだろう。
嫌味なデブとか……良い所がなさ過ぎて草しか生えないぞ。
更に大デブは、自分の中では爽やかなんだろう笑みを作ってからフラウへと再び口を開いて来た。
「……けど、お宅らだって『胸無し』とか言う、ふざけたコンビ名を付けているんだしさ? 今更『ペチャパイ』と言われた所で、文句が出るとは思えないんだけど、どうだい?」
そうな?
デブにデブと言う位、自然な事だと思うよ。
「自分からおかしな名前を付けているんだから、少しは自制すべきだと思うんだよね?」
尚も超デブは言って来る。
「うぐぐぐぅっ……」
これに、フラウは反論する事が出来ずに、ただただタマコを睨み付けていた。
胸無しとか言う、不本意極まる名前を命名していた張本人は、フラウからやって来る怒濤の殺意を……しかし、意に返す事なく涼し気に受け流していた。
後で、絶対にフラウが天誅を下す構図が出来上がりそうで……私的には楽しみだ。
もちろん、私も加勢してやるぞ、フラウ……いや、同志よっ!
「それと、さ? ここは上位魔導師になる為の試験だろう? 俺からすれば、君の様なションベンガキ……もとい、クソガキが一緒に居られると目障りなんだよね? 今からでも遅くないから、棄権したらどうだい? 俺達と戦うとか……ははははっ! 流石に可哀想過ぎてねぇっ!」
超デブは、高らかに笑っていた。
何がそんなにおかしいのか知らないが……私も一つだけ言ってやろう。
「おい、糞デブ。暑苦しくて目障りだから棄権したらどうだ? それとな? 私をここまでマジに怒らせた代償は……大きいぞ? 今から診察券を準備して置く事だな?」
私は、超デブに対して不敵な笑みを作ってから、誰が聞いても理解出来るレベルの罵声を浴びせてやった。
「……へぇ、そいつは楽しみだなぁ……潰れあんパン女?」
「なに?」
超デブは、軽口を叩く感覚で私に言った。
潰れあんパン女……だと?
それは、何処を指して言っているのかな?
それは、フラウではなく、私を指して言っているのかな?
「良し、分かった。お前は絶対に泣かす。つか、くたばっても文句言うな? もう、泣いて謝っても許さん」
こうして、私とフラウVS糞デブコンビの戦いが始まって行くのだった。
◎●○●◎
私達コンビとデブ二人が、グラウンドの中央へと互いに対峙する形で並ぶと、
『では! これより二次試験の一戦目を開始します! 審判は、一次試験で出番がなかった試験精霊・タマコ十号が行います!』
私達の合間に入る形で、一次試験ではお馴染みになっていた試験精霊が私達へと口を開いていた。
言われて見ると、レベル10は事実上の合格になっていたから、そのままパスしたんだったな。
すると、他の組は別の試験内容だったのかも知れない。
一次試験は、試験その物をルーレットで決める方式だったからな?
……話を戻そうか。
一応、試合形式的な感じで行う為、互いに一礼する形を取り、試験精霊の号令と同時に戦闘が開始される模様だ。
『それでは! 只今より! 重戦車コンビ対胸無しコンビの戦闘を開始します!』
そのコンビ名は、マジでやめてくれないかなっっ!?




