上位魔導師になりたくて!・二次試験【6】
不本意でありつつも……しかし、勇者になれる程の勇気もなかった私が、渋々ながらも頷きを見せている中、タマコの説明が続いた。
「各対戦の組み合わせは、例によってルーレットで選出されます。ここはやっぱり魔導師組合なので、幸運要素も少なからず入れたい所です」
タマコが答えた直後、彼女の後ろに大きなルーレットが出現した。
同時に、二つのルーレットが高速に回る。
どうやら、一戦目の対戦カードを抽選している模様だ。
しばらくして、ルーレットが止まる。
左のルーレットは、重戦車と言う名前が書かれている部分で矢印がストップしていた。
重戦車……ねぇ?
これがコンビ名なのか?……ぷぷっ!
きっと、この名前! 付けた本人達は格好良いと思ってつけたんだろ?
もしかしたら、もっと十四才を拗らせた名前にしたかったのかも知れないけど、あまり中二を爆発させちゃうと恥ずかしいから、少し控え目にした結果なんじゃないのか?
どの道、この名前を色々と空気まで読んで、真剣に考えてる姿とかを想像すると傑作だよなっ!
「……ぷっ……くくく……」
私が、思わず堪えきれない笑いを口から漏らしていた時、対戦相手になるのだろう右のルーレットも止まる。
余談だが、左右の名前が被らない様にする為、左に停止した名前は右のルーレットでは停止しない様にする為、左で決定した瞬間に名前が消滅している。
地味に芸が細かい事をしているな……と、地味に感心してしまう所だ。
余談はさておき。
右のルーレットは胸無しで止まった。
…………うん。
忘れてた。
私達のコンビ名の方が大概だったよ。
私は、相手チームのコンビ名を少しでも笑った自分に恥ずかしさを抱いていた。
……そして。
「胸無しコンビだって!? はははっ! どんな自虐ネタのコンビなんだよ? この試験をバカにしてるのか?」
今は、強い憤怒の感情で一杯になっていた!
私達だって、本意でこんな名前にしたんじゃないっ!
つか、お前等だって『重戦車』とか……十四才が、露骨に強そうだと恥ずかしいから、ちょっと控え目に考えたらこうなった的なネーミングな癖に!
余りにも腹立たしいので、即座に文句を言ってやろうと思ったのだが、フラウが止めて来た。
「やめときなよ、リダ。こう言う雰囲気の時に、決まって憎まれ口を叩く連中のレベルなんか、大抵は低いに決まってるんだからさっっ!!」
フラウは笑みのまま、にこやかに言い放っていた。
……そう。
言い放っていたのだ。
つまるにそれは、わざわざ相手の耳に届く声量で、遠回しに喧嘩を売っていた訳で。
「なんだと? 俺達のレベルが低いってか?」
「あら、ごめんなさい? うっかり本音が出ちゃったみたいで。けれど、お互い戦闘をするんでしょう? それなら直ぐに実力が分かっちゃうから、大丈夫ですよねぇ? 太った戦車さん?」
案の定、カチンと来たコンビの一人が、フラウを威嚇する形で鋭い眼光を飛ばす中、涼しい顔をしたフラウがケラケラと笑い飛ばしながらも毒を吐いて来た。
特に最後の『太った戦車』は、実に的を射た毒舌でもあった。
理由は簡素な物だ。
文字通りデブだった。
身長もそこそこ有り、百八十程度はあったろうが……縦よりも横の方が、圧倒的なインパクトを誇っているとしか言い様がない。
私的に言うのなら『来場所は幕内を狙っているのですか?』と、尋ねたい所だ。
「太った戦車……だと? こ、この俺の何処がデブだって言うんだっ!?」
フラウの毒舌に、デブは意味不明な事を口にして来た。
やばい……コイツ大丈夫か?
フラウが貧乳を認めないレベルの意味不明さだぞっ!?
「はぁ? それは、鏡を見た事がないと言う意味ですか? 体重計の上に乗った事がないと言う意味ですか? 貴方以外の人間を、誰一人として見た事がないと言う意味ですか? どちらにしても、私の観点からすれば十分なデブ男なんですけど?」
眉を寄せたフラウは、言ってから次々と悪態めいた雑言を口にして行く。
挙げ句、一通り言い終わったフラウは、言ってから高飛車に笑っていた。
何てか……お前はやっぱりユニクスの妹分なんだなぁ……と、妙に納得させられる私がいるよ。
性悪女みたいな口の悪さをこれでもかと言うばかりに発揮していたフラウを前に、デブは身体をフルフルと震わせてから叫んで見せた。
「俺はデブじゃない! 少しポッチャリしているだけだっ!」
これが漫画だったら、背景に『バーンッッ!』って感じの効果音チックな文字が大きく表示されそうな勢いで叫んでいた。
ああ、いるなぁ……こう言う奴。
「可哀想な人だね……あなたも」
フラウは、何処か遠い目をしてから嘆息していた。




