上位魔導師になりたくて!・二次試験【1】
一次試験を無事通過し、多少の疲労感を抱きつつ……しかし、一定の充実感の様な物を感じながらも意気揚々と魔導師組合の宿舎へと戻って来た私とフラウ。
戻って来て早々に、私とフラウの視界にやって来たのは満面の笑顔を浮かべるユニクスの姿であった。
「試験結果は聞きましたよ! おめでとうございます! 私なりに不合格になるなどあり得ないと思ってはいましたが……やっぱりちゃんとした結果を耳にしないと、何処か心配してしまう部分がありますからね! 本当、自分の様にホッとしてます」
嬉々として語るユニクスは、私に向かってひたすら上機嫌に答えると、
「フラウも頑張ったな! お前ならやれると信じていたけど……だけど、良くやった! この調子で次も頑張るんだ!」
隣にいたフラウにも、精一杯のエールを向けていた。
意地悪な姉を演じてやると言っていた気がしたんだが……その姿は微塵もなかった。
素朴なツッコミを入れても良いかな……とは思ったが、そこは野暮と言う物だろう。
直後に見せるフラウの態度が、少なからず私に野暮だなと言う判断に無言で導いていた。
「ありがとう、ユニクスお姉! まさかお姉がそこまで祝福してくれるなんて、リアルで夢にも出て来なかったよ!」
フラウは満面の笑みで言っていた。
きっと、本当に『夢でも』自分を祝福するユニクスが出て来なかったのだろう。
だって、普通は『夢にも思わなかった』と言う所だもの。
「そ、そうか……う、うん……つ、次は、せめて……夢ぐらいは優しいお姉ちゃんを出してくれたら、私は嬉しいかなぁ……あはは」
ユニクスは少しだけ強ばった笑みでフラウに言っていた。
ちょっとだけ目尻に涙が出ていた。
自業自得な部分も間々あるから、特に弁護するつもりはないけど、取り敢えず涙を拭いておけ。
「それより、他の連中はどうした? まだ川の方へ遊びに行ってるのか?」
「ああ、他のメンバーもさっき帰って来まして。今は、みんなでシャワールームの方に向かってますね? 楽しい思い出が沢山出来たと喜んでいたみたいです」
それとなく尋ねた私の問いかけに、ユニクスはやんわりと笑みを作って答えていた。
「そうか。それは良かった」
私は一応の相づちを打つ。
楽しい思い出が作れた事に関しては、特に言及するつもりはないんだが……何故だろう? 物凄く悔しい気持ちにさせられるのは?
多分、気のせいだろう。
娘と一緒に川岸で沢蟹相手に一喜一憂したり、一緒に泳いだり、ルミやルゥ達と石を投げて見たり……ああ、メイちゃんと磯釣りとかもして見たかったなぁ……。
「どうしたんですか、リダ様? 瞳に一杯の涙を溜めている模様ですが……何処か怪我をなさっていたのですか?」
「い、いや……違う、違うぞユニクス! 私は川でみんなと遊べなかった事なんて、全然……グスッ……気にしてないぞ!」
「いやいや、リダ様。私はそんな心配など全くしておりませんでしたよ? ちゃんと私の話を聞いて下さい……と言うか、泣いてるじゃないですか。そんなに私と川遊びがしたかったのなら、後で存分に……」
「いや、お前と川に行くつもりはない」
「まさかの即答っっ!?」
ユニクスはガーンッ! って顔になって叫んでいた。
「あはは……ごめんね、リダ。私の付き合いで、みんなと一緒に行けなくてさ……」
そこからフラウが私へと申し訳ない顔になって答えて来る。
私は苦笑した。
「お前が、上位魔導師の実地試験を言ってくれたから、みんながここに居る訳だし……そこは仕方ないだろう? むしろ、今回の帝国節(長期休暇)は、何処に行くかで迷っていた所だったしな? 私としては逆にお礼を言いたい所だ」
私は笑みを作って言う。
実際、ここにやってきた切っ掛けはフラウでもある。
そこを加味するのであれば、私がフラウの相棒をやらなかったら、みんなもこんな山奥まで来る事はなかったろう。
もちろん、ここでの思い出の全てがなかった訳でもある。
フラウにはお礼を言う必要こそあれ、苦言を口にする事なんてある筈もないんだ。
「そう言ってくれると、私も少しは気が楽になるよ。ありがとう! やっぱり私は良い事をしてるよね! リダをもっとコキ使っても良い、大義名分だってある訳だよねっ!?」
「そこはあるかよ! 調子に乗るなぁっ!」
甘い顔をした私が馬鹿だった……と、間もなく前言撤回する羽目になるのだが、余談程度にして置こう。
どちらにせよ、フラウも一次試験を順当に突破したし、他のメンバーも楽しい山の思い出が生まれて、互いにウインウインな関係が出来上がっているのは、何よりだな……とは思った。
口に出して言うと、またもやフラウが調子に乗るので、そっと……私の胸の中に留めて置くだけにして置くのだが。




