【2】
そこから数分程で、三回戦最後の試合になる、ルミと三学年第三代表の人の戦いが始まる。
シードを破った超一年生として、周囲からの脚光を浴びまくるルミは、スタジアム内ではちょっとした時の人になっていた。
「ルミさぁーん! 頑張ってくれー!」
「今度も勝ってくれよー! 応援するぜっっ!」
「きゃぁ~ん! ルミ様! あたしと良いことしよう~っ!」
……一部変なのがいたが、人気は上々だと言う事が伺えた。
「なんか、違う意味で緊張するなぁ………」
あんまり注目されるのが苦手なのか、少し緊張気味のお姫様。
ちょっと心配にはなるが、多分大丈夫だろう。
「凄い人気だな……」
そうと答えたのは、対戦相手の三年生。
少し羨ましいのか? それとも、単純に人気者と戦うのに気が引けたのか?
どちらにせよ、余り良い顔はしていなかった。
「えぇと、よろしくお願いします」
「よろしく」
ペコリと頭を下げるルミを前に、その三年生も短く一言だけ声を返していた。
やっぱりやりにくそうな顔をしてるな。
特に悪い事をしてるわけじゃないけど、結果的に敵役を強いられる様になったから、どうしても無愛想な態度になってしまうのかも知れない。
「始め!」
試合が開始される。
相手の三年生は槍かな?
やっぱり模擬刀と同じで殺傷力の低い物を使っている。
槍は剣より圧倒的にリーチがある。
その長さを活かしたスタンスで戦えば、相手が魔法使いでも決して負けはしないだろう。
……と、思った時が、私にもありました。
「うぉわぁぁぁぁっ!」
開始十五秒。
颯爽と槍を構えてルミへと槍を振るった瞬間。
ゴォォォォッ!
っと、出て来た炎壁魔法に相手が焼かれていた。
今までの相手は剣士だったから、なんとか寸前で避けて逃げていたのだが、槍は少しウェイトがあったせいか、その分少し逃げ遅れた。
時間にして精々数秒だったとは思う。
だが、その数秒が大きく勝敗をわけてしまう事だってあるのだ。
結果的に、炎の防御壁を張ると言う、ルミからすれば防御手段を取った最初のターンで決着がついてしまった。
「えぇと……あの、大丈夫ですか?」
流石に驚いたルミ。
目はテンになっていた。
正直、少し申し訳ない顔にすらなっていた。
余りにも呆気ない幕切れに、観客もつまらない顔をするかと思いきや、むしろ大賑わいだ。
「おおおおおっ! マジか! やっぱりルミちゃん強ぇっ!」
「可愛いのに、格好良いとか、最強すぎる!」
「あぁ~ん! ルミちゃんに抱かれたぁ~いっ!」
やっぱり最後はおかしいのが混ざっていたけど、ともかく闘技場はルミを大絶賛だった。
かくして、三回戦もこうして終わり、残りは準決勝と決勝の二つを残すのみとなって行くのだった。
●○◎○●
準決勝は、実質一個しかない。
前々にも述べたかも知れないが、十四人でトーナメントを作っている関係上、どうしてもその形が歪になってしまうのだ。
よって、ユニクスは既に決勝進出を決めており、次の試合の勝者……準決勝となる私とルミ姫様の結果待ちとなっていたのだった。
「手を抜くなよ、ルミ姫様」
私は目をミミズにして言う。
知ってるヤツもいるだろうが、前の学年予選でも準決勝で当たってるんだけど、その時のルミ姫様がな……。
すると、ルミ姫様はフッ! と好戦的な笑みを色濃く作ってから叫んだ。
「そう言うリダは精一杯手を抜いて!」
「格好つけて、残念な台詞を叫ぶんじゃないよ!」
ああ、もう、なんだかなぁ……。
最初から本気で負けに行く事を算段している様にしか見えない。
つまり、こうだ。
「痛くない負け方がしたい!」
「って、口に出てるから!」
なんで、こんな根性のない事を平然と言えるんだよルミ姫様……。
「始め!」
ある意味、お互いに戦う気がない心境のまま、試合開始の声が審判からやって来た。
正直、ちょっとした脱力感すら心の中に産まれた私がいる。
てか、もう、帰っていいか?
「さぁ、リダ! 私をバシィ~ンとやっつけちゃって」
いやいやいや!
開幕からおかしな事を言ってたルミ。
ここまで勝つ気がないと、むしろ清々しい。
「別に、いいけど………バシィ~ンだと、少し痛いかもしれないぞ?」
「……う」
口ごもった。
「い、痛くない様なのでお願いします!」
ペコッと頭下げて来た。
もう、どんな戦いなんだよと本気で思って来た。




