上位魔導師になりたくて!・一次試験【22】
発動された瞬間、
ボンッッッ!
フラウの周囲に余剰エネルギーの様な物が舞い上がる。
強めのつむじ風みたいな程度ではあったが……エナジーが跳ね上がる事で、周囲に旋風を巻き起こせる時点で、相応のエネルギーがフラウに充満している事が良く分かった。
……やられたよ。
私は、少しばかりフラウと言う天才少女を甘く見ていた模様だ。
否、違うな。
私は、フラウと言う……地道な努力を常に常にやり続けた、努力の天才が持つ、未知の強さを侮っていた。
最初からそれなりの才質があった事はあっただろう。
そうじゃなければ、やっぱり龍の呼吸法を習得する事は出来ない。
しかし、才覚が実際に実力としてフラウに現れたのは……並々ならぬ努力の賜物以外の何物でもない!
才能があっても、努力をしなければ……その程度で終わる。
才能が隠れている者であっても、努力なんざまっぴら御免と考えたら、やっぱりそこで終わりだ。
全ての苦悩を乗り越え……自分を信じて、鍛えに鍛え抜いた先に今のフラウがいる。
栄光は勝ち取る物なのだ。
必死で努力して……努力して、努力して。
数多の苦難と苦行を経た事で、ようやく味わう事が出来る。
全ての苦労が報われる……その集大成を。
栄光の二文字を、運や才能だけではなく……努力で勝ち取った典型とも言える姿を、これ以上ないまでに私へと教えてくれた。
本当……お前は、凄いヤツだよ。
龍の呼吸法を発動させた事で、ペッタン子のフラウが圧倒的な優位性を持つ様になった時……豊満ボディを持つ、偽りのフラウが一気に勝負に出た。
もしかしたら、少し焦りがあったのかも知れない。
そして、この焦りが全てを語っている。
間違いない。
私の時と同じ……コイツらは補助スキルまでは複製出来ていない!
炎神の槍!
豊満過ぎて、もはやフラウの顔をした別人が両手を掲げた瞬間、年中無休・二十四時間で胸が平たいフラウの頭上へと五本の巨大な炎槍が出現する。
……あっ!?
この瞬間、私は気付いた。
この魔法は、これまでとは違い……相殺が出来ない!……と!
例えば、さっきの魔法だと……互いに、自分の前に出現した矢を相手に向けて放つ魔法であったので、相手も同じ魔法を放てば、同じ矢が互いの間で衝突し合い……相殺される。
所が、この魔法は発動させると相手の頭上に槍が出現する仕組みだ。
そうなれば、どうだろう?
互いに発動させると……互いに相手の頭上へと炎神の槍が落ちる事になる。
フラウが同じ魔法を発動させても相殺は狙えない。
豊満なフラウも、平たいフラウの魔法を受ける事になってしまうかも知れないが、平たいフラウも豊満フラウの魔法を受ける事になってしまう。
つまり、これは……相討ちを狙った魔法かっ!?
そうと私が思っていた時、
炎神の槍!
平たいフラウも炎神の槍を発動させた!
……まさか、相討ちで良しとするのか?
私の思考に、この様な考えが浮かび上がっていた……その時だった。
「……っ!?」
私の目が大きく開いた。
……え? まさか……こんな真似まで出来るのかっ!?
平たいフラウが魔法を発動した瞬間、炎神の槍が出現する。
……出現したのは、平たいフラウの真上だ。
相手が発動させた槍が上から下へと落ちて来る場所を狙って、平たいフラウは下から上に登って行く炎神の槍を出現させたのだ。
……つまり、元来なら『頭上に出現する魔法』を、自分なりに魔導式を変換し……創意工夫させる事で、意図的に槍の出現場所と方向を、己の意思で決められる様にしていたのだ。
……マジか。
理屈的には、魔導式を変化させた魔法のアレンジ。
しかし……このアレンジは口で言う程、簡単な代物ではない。
魔導式ってのは、表現を置き換えれば、魔力と言う名の危険な爆弾。
組み込み方を間違えると暴発ないし暴走を起こし……とんでもない事になる。
よって、オリジナルの魔法を自分なりに工夫して魔導式を組み立てると言う技法は、恐ろしく難しいのだ。
それを……弱冠十六才にして、早くもやってしまうのかよ……フラウ。
私は、きっとこの試験で上位魔導師になるだろう……末恐ろしい天才魔導師に、思わず固唾を飲んでしまった。
平らなフラウが炎神の槍を発動させた瞬間、豊満なフラウが発動させた炎神の槍を、下から押し上げる様にして衝突し、
シュバァァァァッッッ!
一瞬で豊満フラウが出現させた槍を消滅させていた。




