上位魔導師になりたくて!・一次試験【14】
「……勝った……の、かな?」
フラウが、やたら自信のない声音で口を開く。
問い掛けに近い口調で言っているのだが、恐らくは独り言に近い物だろう。
特に誰彼に答えを聞いていると言うより、ただただ実感が湧かなくて、思わず口から飛び出してしまった様に見えたからだ。
……私としても、未だに勝利した気分には至らない。
向こうが一方的に魔法をぶっぱなし……防戦しただけで、戦闘に勝利した様な物だからだ。
正確に言うのなら、フラウの一撃が向こうにヒットしていたのを確認はしていたが、致命傷を与えるまでには至らない。
当然……そうなれば、本来なら互いに雌雄を決する戦いが始まる筈なのだが……ここで、まさかのギブアップ宣言。
見事なばかりの不完全燃焼な結果に、私の気持ちも複雑だ。
今ある……妙にやる気になった好戦的な感情を、何処にぶつければ良いのかで大いに悩んでしまうレベルだ。
勝った筈だと言うのに、なんともやるせない気持ちで一杯だった私がいた頃、試験精霊がにこやかに微笑みながら私達へと答えた。
同時に、これまであった巨大魔法陣もフッ……と、何処かに消え去って行く。
試験相手のタマレイバーが負けを認めたので、自動的に魔法陣も消滅したのだろう。
どう言う仕組みなのか知らないけど、こう言う所は魔導師らしい魔法の使い方と言うか、演出と言うか……ファンタジックな感じがして、私的には好印象ではあった。
……でも、こう言う戦闘の終わり方は嫌だな。
『これにて、レベル2はクリアです。得点に加点5されます。他のレベルでの試験も、この調子で頑張って下さいね!』
答えた試験精霊・タマコ二号は、間もなくスゥ……と姿を消して行った。
「えぇと……次に行こうか?」
「そうだね……でも、何か……自信無くしちゃう相手だったよ……」
物凄い勢いで攻撃され、撃つだけ撃ち捲って、勝手に負け宣言までされてしまうと言う……徹頭徹尾において微妙な気持ちにさせられ……でも、気分を変えてフラウを促す私の言葉に、フラウは少しだけ目線を下げて声を返す。
気持ちは分からなくもない。
魔法の技量だけを見れば、さっきのタマレイバーはフラウの実力を上回っていたからだ。
最後はまさかの魔力切れとか言う、アホな顛末を迎えてしまったのだが、それさえ抜かせば強敵と表現しても過言ではなかった。
しかも、これがレベル1だと言う。
今のタマレイバーを色々と改良した、よりレベルの高いタマレイバーが、出現するとなれば……今のフラウが抱いている弱気な気持ちも分からなくはない。
「やっぱり、私にはまだ上位魔導師は早かったのかな……?」
すっかり自信をなくしていたフラウは、目線を下に落とした状態のまま、ボソボソと小声で口を動かして来る。
「バカだな、お前?……魔導師組合ってのは、何処の組合よりも幸運のステータスを重要視している組織でもあるんだぞ?」
「それは知ってるよ……実力のあった大魔導が、物凄い幸運を持ってる僧侶に負けた伝記から、幸運を持つ魔導師を優遇して育てるんでしょう?」
「なんだよ……分かってるじゃないか?」
私は、答えてからニッ! と笑い、自分を指差して答えた。
「お前は幸運だ。この私を相棒にして、試験を受ける事が出来るんだからな?」
「…………」
フラウはポカンとなった。
しばらく目を大きく見開き、ほけ~っとした顔になっていたフラウであったのだが、
「……ぷっ! あはは! 自分でそれを言う? 全く、リダは本当に自信家だよね!」
フラウは大きく笑って見せた。
ちょっと恥ずかしい気持ちになる私がいた。
「うるさいな……私だって、少し自信過剰な台詞だなぁ……って、思いはしたんだから」
「あはははっ! そうだね! めちゃくちゃ自信過剰! ハチャメチャに傍若無人! 途方もなく唯我独尊! 三拍子揃ってるリダだからこそ言える台詞だと思う!」
「そこまで言うなよっ! 傷付くだろっっっ!」
お前の相棒やめてやろうかっ!?
思わず、こんな台詞を口から吐き出そうと思っていた私がいた時だった。
「だけど、最高に……友達を大切にしてくれる、唯一無二の親友でもあるよ。リダは知らないけど、私は本気でそう思うし……この出会いは私の人生で最大の幸運だと、本気で思ってるよ」
フラウは努めて真剣な眼差しで私に言った。
……やれやれ。
「最初から、その言葉を素直に言っていれば、私だって妙なフラストレーションを溜めないで済んだって言うのに……」
「まぁまぁ、良いじゃないの? こう言うブラックジョークを言い合える仲って、私的にはかなり貴重なんだからさ?」
「……まぁ、そうな?」
フラウの言葉に、不思議と納得してしまう私がいた。
腑に落ちた気持ちになってしまうのは、きっと……フラウと同じ理由なのかも知れない。
どう考えても罵詈雑言にしか聞こえない台詞であっても、フラウが言えば、それがブラックジョークだと信じる事が出来るし……そうと信じられる相手と言うのは、私にとってもかなり貴重であったからだ。




