【1】
「フラウ、負けちゃったね」
大会の選手控え室にて、残念そうに言うルミがいた。
きっとこれまで色々あった相手だけに、思う所があるのかも知れない。
時に友人として慣れ親しみ、時に好敵手として戦った唯一無二の親友と呼んでもおかしくない相手だ。
それだけに、さっきの試合はルミから見ても目を背けたくなる様な凄惨な内容だったに違いない。
そしてなにより、だ。
「あのフラウが、手も足も出ないのは、私も驚いたよ」
苦笑混じりに答え、ルミは消沈した。
「多分、私じゃ勝てない……と言うか、怖い」
そうなるだろうな。
あんなのを目の当たりにされたらな。
もし、フラウではなく、自分が対戦相手だったのなら、あんな風にボコボコにされていたのは自分だったかも知れない。
そう考えたら、ルミ姫じゃなくても恐怖を感じてしまうだろう。
だから、その気持ちは私にも良くわかった。
けど、さ?
姫様?
「大丈夫、まだ私らが残ってる」
諦めたら、そこでおしまいだ。
まだ、勝ち残ってる私達がいる。
そんな私達が、ユニクスに勝てるわけがないと諦めていたら、もうその時点で結果は出ている。
「絶対にユニクスを泣かす。そうと私は決めたんだ」
「……そうだね」
にっこり、微笑んだ。
きっと、どこか良い形で吹っ切れたのかも知れない。
多分、そんな顔をしていたんだと思う。
「こっちにはリダがいたんだ。うん! 大丈夫! 楽勝、楽勝~!」
今度は能天気に笑う。
……少し楽観的なんじゃないか?
思わず、そうと言いたくなってしまう私がいたが、その言葉は敢えて口にしなかった。
このまま湿っぽい空気でいられるのも困るし、何よりルミは私を心から信頼してるからこそ、それだけ能天気な態度を取っていたのだから。
この信頼に、私は応えないと行けない。
これは義務だ!
「私は、どの道さ? 次を勝って準決勝に行っても、リダと当たるから、そのユニクスさんには当たり様がないしね。大丈夫だと気付いた」
……なんだと?
「ま~リダなら行けるって思ったら、凄く気が楽になったよ~。それじゃ、よろしくね、リダ!」
「試合は真面目にやれ!」
少し感動してた私の気持ちを返して欲しいと本気で思わずにはいられなかった。
……さて、三回戦だ。
フラウが負けた後、こんなやり取りを軽くルミ姫様と交わしていたんだが、地味に茶番になってしまったのが悲しい。
さっきも言ったけど、ルミとフラウは知り合ってから以降、随分と仲良くなって行ったんだ。
そう言うのをすぐ近くで見ていたから、気になって声を掛けたんだけど……ねぇ。
取り合えず、私に丸投げする気だったと言う事だけは分かったよ!
地味に気分悪いですよ、ルミ姫様!
まぁ、そこは一先ず置いといて、だ。
三回戦の第二試合は私と、二学年第二代表の人の試合だった。
取り合えず試合だからと思って闘技場には行ったけど、ただ行くだけの作業としか思えないね。
一回戦の時と同じく、私がハイライトで語ると一行で終わってしまう様な内容なので、今回は趣向を凝らして、解説のシズがアナウンスの人と簡単に三回戦について語っていたから、そこを紹介しよう。
『では三回戦、第二試合です! 実況は私、イン・タヴュアがお伝えします!』
アナウンサーなのに、名前はインタビュアなのね。
なんてふざけた名前なんだろう。
『う~。解説は、剣聖ことシズ・ソレイユ・サンスタンドが解説します』
『さて、剣聖。この試合を楽しむポイントは何処にあります?』
『う?』
しばらく沈黙。
『あ、あのぅ……どうされました?』
ちょっと困ったイン・タヴュアさん。
どうても良いが、名前をアナ・ウンサーに改名しても良いんじゃないんだろうか?
『う、う~う~………うぅぅ』
『あの、唸ってるだけ?』
『つまり、そう言う展開』
どんな展開だよ!
『あの、もう少しわかりやすく解説して頂けると助かります』
インさんも、少し困った風だった。
そりゃ困るな。
私だって同じ事されたら、大いに困る。
『私の見解だと、戦闘が始まって五秒立ってられたら、協会本部を通してこの二年生の子をウチで教育したいと思う。その位、頑張ったと思う。う~』
『五秒ですか?』
『そう。あ、ちなみにリダが攻撃を開始して五秒。開始してない時間は含まれないう~』
『そ、そうですか』
………く。
わざと五秒、攻撃しないでやろうかと思ってたんだが、アテが外れた。
『とりま、二学年の子はご愁傷さまとだけ言っておく。う~!』
……まぁ、こんな感じの解説があった。
結果は言わなくてもわかるだろう?
『……五秒もちませんでしたね』
『それでも三秒持った。敢闘賞!』
シズはなんかグッジョブしてたらしいけど……余談だ。




