上位魔導師になりたくて!・一次試験【5】
ダメだ……私!
もっと冷静になれ!
こんな下らない事で、フラウの一生を左右する試験を水の泡にする訳には行かない!
でも! 滅茶苦茶ムカつくぅぅぅぅっっ!
「耐えて……リダ! 実は私も、あのおかしな試験官に炎神の槍を叩き込んでやりたくて仕方ないんだからっ!」
「……はは……うん、大丈夫だフラウ! 私だって十分な大人だ。流石にそこまで短気を起こす様な真似はしないさ……」
正確に言うと、今はなっ!
この卵マニアには、私にこんなふざけた口を利いた事を、後で絶対に後悔させてやる事にして……今はただただ、ひたすら愛想笑いを作る事に徹した。
「何か、二人共……試験官である私に対して、随分と反抗的な気がするけど……まぁ、今回は大目にみてあげるわ? これ以上の減点とかしたら可哀想だものね? 寛大な試験官で良かったわねぇ? あはははっ!」
……右手の震えが止まらない!
ああ、もうっ!
ともかく、試験開始だ!
高慢ちきな卵マニアに、私の沸点が臨界点にまで差し掛かるのを感じつつも……どうにか踏み止まる事が出来た私は、隣でやっぱり私と同じレベルで怒りを堪えているフラウと二人で、一次試験を受ける流れへと進んで行くのであった。
○◎●◎○
こうして始まる上位魔導師の実地・一次試験は、
「じゃあ、まずはあなた達ブロンド&シルバーの試験を何にするか決めて貰いましょうか?」
良く分からないルーレットが出現する所から始まった。
これは一体、どんな冗談だろう?
試験官の卵マニアが、なんらかの魔法を発動させた直後、フラウと私の前にポンッ! と出て来たのは、巨大な円形の板みたいな物を中軸に取り付けてある台座の様な物であった。
単刀直入に言えば、ルーレットだ。
恐らく、円盤の様な板の部分がクルクル回る仕組みになっていて、板に書かれている内容が、今回の試験内容になるのではないかと予測される。
実際に、ルーレットの円盤には、試験の内容と思われる物があれこれ書かれている。
一例を軽く読むと、魔力の試験とか魔法技術試験とか戦闘試験とか……?
この他にも幾つかあるな。
特殊な所だと……なにこれ? 当たり?
いや、いらんだろ! この部分!
「あのぅ……これは、何ですか?」
おずおずと尋ねてみるフラウ。
「さっきも言ったじゃないの。これで一次試験の内容を決めるのよ」
卵マニアは顔で『ちゃんと聞いてる?』的な感じの雰囲気と醸し出しながら言う。
どうやら、人の感情を逆撫でないと、言葉を発する事すら出来ない性格らしい。
コイツ……友達いないだろ?
「魔導師組合の選定基準の中に『幸運』があるのは知ってるわよね? これは、受験者の幸運を計る意味も予て、この様な形を取っているのよ。受験者に幸運が宿れば、自ずと本人に都合の良い試験内容が選ばれるだろうし……逆に不幸が付きまとう受験者なら、受難としか言えない試験内容が選ばれる訳よね?」
……なるほど。
何とも馬鹿らしい話ではあるが、幸運も一つの重要なパラメーターだと考える魔導師組合であるのなら、あながち本気で考えそうな話だ。
「じゃあ、フラウさん? このルーレットは受験者のあなたが代表で回してくれる? そこのボタンを押せば、ルーレットがスタートされるから」
答えた卵マニアが、ルーレットの横当たりにある大きなボタンを指差した。
これが、ルーレットのスタートボタンなのか。
「分かりました! じゃあ、押します!」
卵マニアに促されたフラウは、ルーレットのスタートボタンへと向かい、真剣な顔をしてボタンを押して見せる。
直後、ルーレットの円盤部分が、勢い良くグルグル回った。
円盤部分は、しばらく回転して行き……段々とゆっくりになって行く。
この回転が完全停止した時点で、円盤の少し上に取り付けてある矢印が示した内容が、今回の試験に適用される訳だ。
果たして、最終的に停止したのは……ん? 当たり?
「あ! ちょっ!? いきなり当たりとか、つまらないでしょっ!?」
刹那、卵マニアがルーレットに向けて右手を向けた時……一陣の風が吹いて見せる。
その風圧によって、ルーレットの回転盤が少しだけ勢いを取り戻した。
結果、ルーレットに取り付けてあった矢印は当たりを通過する……って、ちょっと待てぇぇっ!
「あの?……これ、インチキじゃないですか? 今の絶対に当たりで止まる所でしたよ?」
冷たい視線を向けて言う私。
そもそも、試験内容に当たりが入っている時点で、なんだそれは? と言う気持ちになってしまうのだが、その当たりを堂々と魔法で阻止している試験官もどうかと思う。
てか、そこまでして当たりを引かせたくないのなら、最初からそんな物を入れて置くなよっ!




