上位魔導師になりたくて!・一次試験【3】
会って早々に雲行きの怪しい試験官へと、する必要もない不安の二文字を胸の中に刻む羽目となった。
「な、何か……少し、個性的な人だね」
フラウはかなり控え目な台詞を口にしていた。
きっと、心の中では色々と悪態を吐いているんじゃないかと思う。
「ふぅ~ん? 君達二人が、今回の一次試験を受けるのねぇ? ふふ……ちょっと頼りない感じがするけど、大丈夫?」
アンタに言われたくないよっっ!
鶏の卵ごときで仕事に遅刻して来る程度の生活能力しか保持していない試験官のお姉さんが、私達を心配する様な眼差しを見せて来た。
何だろう……これは新しい罰ゲームなんだろうか?
抽象的に分かりやすく言うのなら、バカにバカと言われている様な気分だ。
見れば、フラウのヤツも必死で、心の中にあるわだかまりを必死でどうにかしているのが分かる。
耐えろ……耐えてくれ!
私だって、こんな社会不適合者に『頼りなさそう』とか言われて、思わず右手でロックオンしちゃいそうな衝動に駆られてしまったんだから!
「頼りになるかどうかは、試験を実際にやれば分かる事だと思います。私に言える事はこの程度の事しか御座いませんがね?」
それでも悔しいから、少しは頼りになるっぽい台詞を遠回しに言ってみせた。
正直、自分でもかなり遠回し過ぎて、自信がありますよと言う意味になるのかどうかで悩んでしまう様な言い方ではあったのだが。
「まぁ……ね? そこは、確かにそう。試験をやって、その結果を見てから物を言うのが正しいわね? 卵もそう! 実際に食べてみないと分からない! うーん! これは奥が深い話よね!」
……深いのか?
てか、さっきから鶏の卵の話しかしていないぞ、このお姉さん。
もしかして、鶏の卵マニアか何かなんだろうか?
今回の試験官としてやって来たお姉さんが鶏の卵マニアであると言う……人生において一切役に立たない無駄知識を学習した所で、
「じゃあ、まずは二人のコンビ名を決めようか?」
私とフラウの二人が、キョトンとなってしまう様な台詞を口にして来た。
コンビ名?
「何ですか、それは?」
そんな物を決めるなんて言う話を初めて聞いたんだが?
「そうですね……私も初耳です」
何やらおかしな話になっているなぁ……と、微妙な気持ちになる私がいる中、フラウも驚いた顔をして試験官の卵マニアに答えていた。
すると、卵マニアは言う。
「今回の試験は二人一組になる事が多いのは、きっと二人共分かっているとは思うんだけど……そこで、個別ではなく二人セットで一緒に来て欲しい時にコンビ名を決めて置けば、色々とスムーズに物事が進むでしょう? つまり、これも効率化の一貫でもある訳ね?」
……ふぅむ。
私的に言うのなら、フラウとリダコンビとか、そう言う感じで呼称してくれれば、それで十分だと思うんだが?
けれど、この卵マニアはもっと、しっかりとしたコンビ名を作って欲しいと思っているんじゃないだろうか?
そうなると……少し困ったぞ。
「なぁ、フラウ? 何か良いコンビ名とか考えていたか?」
それとなくフラウに聞いて見る。
すると、フラウは真剣な顔になって私へと答えた。
「当然、そんな物なんか考えてないよっ!」
意味不明なまでに、ドヤ顔で言っていた。
ありもしない胸を、堂々と張っていた。
そこに、どんな誇りがあったのだろう?
フラウの思考は時折、ルミ姫レベルまで低下してしまう。
思考はルミ姫クラスだが、胸がルミ姫と同等にはならないのは、少し可哀想な所でもあった。
「え? 何? コンビ名とか……考えて来てないの?」
卵マニアは、意外そうな顔になって言っていた。
まるで事前通達していたかの様な言いぐさだ。
「仕方ないなぁ……じゃあ、私がパパッ! っと、二人のコンビ名を考えてあげる!……そうねぇ」
そこから、卵マニアが私とフラウを軽く見据えた後、
「良し! じゃあ、君達のコンビ名は『胸無し』で!」
ドォォォォォォンッッッ!
卵マニアは爆発した。
お前は、鶏の卵の奥深さを語ってるだけにしとけよ、こん畜生!
「はぶわっっ! な、中々やるわねっ!……でも、試験官を吹き飛ばすとか減点5だからね!」
吹き飛んだ卵マニアは……しかし、黒い煙を口から吐き出す程度にとどまり、試験官らしく試験の一覧の様な所に何かを書いていた。
きっと、減点されたのだろう。
……ぐむぅ……。
「ちょっ……リダ! いきなり何してくれてるのっ!? 胸無しってコンビ名は、私だって不本意だけど……リダと組んだ時に、そう言う名前になっても仕方ないかなって、覚悟はしてたんだから!」
「いやいや、待てよっ!? このコンビ名は、どう考えてもお前の胸を指してるだろ? ペッタン子! 私はむしろ巻き込まれてるだけだろ?」
私とフラウは、試験が始まるよりも早く、仲間割れに近い口喧嘩を展開して行った。




