怒れる山神【22】
ハチャメチャな状態になって行く中、
『じゃあ、行くおぉぉぉぉっっっ!』
やる気満々のアリンが、これでもかと言うばかりの気合いを入れて叫んでいた。
これこれアリンちゃんや?
もう、結果が出ていると言うか、山神様が戦意喪失しちゃってるんですけど?
つか、山神様が白目になってなかったか?……え? あああ! ダメだアリン! もうやめろ! 今ので山神様が完全に気絶してる!
見事に真っ白くなってた山神様は、間もなくコテンと真横に倒れていた。
その瞬間、私は知る。
自分で大見得を切って起きながら、無責任に気絶した恥ずかしい山神様の姿があった事をっ!
ああ、もうっ! 本当にマジで勘弁して欲しいんですけどぉっ!
「おい、アリン! もう良い! もう大丈夫だ!」
「お? 大丈夫? 勝負すうんじゃないの? アリン、何もしてないお~?」
これだけの事をしておいて、何を言ってるのかな? アリンちゃんよっ!?
そう言ったツッコミを即座に言い放ってやりたい私がいるが……アリン的に言うのならそうなってしまうのだろう。
アリンがやった事は、本気になっただけ。
ただ、本気になった事で光の竜巻が出るわ、地震が発生するわ、マグマが飛び出て境内がリアル大炎上しちゃうわで最悪の状態にっ!?
いや、これ、本気でどうすんのっ!?
やたら手入れの行き通った、綺麗で丁寧にされてた境内とか、全部修理するだけでとんでもない額になるし、石碑とかも…………ん? 石碑?
ああああああっっっ!
よ、良く見たら、落書きされてた石碑も完全に倒壊しまくってる!
え? こ、これ……もう、落書き所の話じゃないし! つか、ガラガラッ! とかって感じで完全に崩れてるしぃっ!
「あばばば……」
完全にカオス状態になっていた光景を見て、私は四つん這いになって頭を抱えた。
ああ……神様!
この、食欲の権化としか他に形容する事の出来ない、愚かな娘をしばき倒して下さいぃぃぃっ!
顔を蒼白にして、完全な現実逃避状態に陥っている私がいる所で、
「お? 何か、お外がメチャクチャになってうお~? 誰がこんな酷い事をしたんだお~?」
今起こっている状態に気付くアリンがいた。
誰がやった……って?
お前以外の誰がやったと言うんだぁぁぁっ!
もう、か~たまは今後の展開が怖くて怖くて仕方ないよっ!
「仕方ないなぁ……アリンが直して上げるんだお~」
嘆息混じりだったアリンは、ボディランゲージで『やれやれ』見たいな事をやっていた。
現状のとんでもない状態を作り上げた張本人が、いけしゃあしゃあと言うんじゃないよと言いたい所ではあるんだが、
「元に戻るんだお~っ!」
修繕魔法!
次の瞬間、なにもかもが全て元に戻った時……私はぽへ~って顔になってしまった。
え? なにこれ? いや、マジで凄いんですけどっ!?
物を直す魔法と言うのは、私も何個か知っている。
けれど、こんな大規模な物を一瞬で元通りにしてしまう様な魔法なんか知らない!
魔導式の様な物を使った様にも見えたのだが……魔導式の組み込み方が余りにも早すぎて、どんな式を紡いでいたのかサッパリ分からなかった。
何となく……本当に何となくだけど、私が知っている既存の魔導式ではなく……もっと、こうぅ……みかんとかが使っている古代魔導的な要素が、大きく組み込まれていた気がして仕方ない。
どちらにせよ……これぞ魔法! と言うばかりの現象が起きていた。
「……ははは」
私は乾いた笑いを口から吐き出してしまった。
どちらにせよ……これで、膨大な修繕費用を請求される羽目には至らないと言う、妙な安堵感めいた物はあったが、それとは別に……何とも言えない敗北感と言うか、悔しさ染みた感情が私の中に生まれていた。
超龍の呼吸法のレベル3を平気でやって来た事実にも度肝を抜かされたし、私の知らない魔法を呼吸をする勢いで使って見せたり……と、まぁ。
何て言うか……母親としての威厳と言うか、人生の先輩として色々と教える立場でいたと言うか……。
それら諸々の尊厳が、見事に足元から崩れてしまいそうな気持ちで一杯だった。
本当に……ウチのアリンちゃんは……一体、何処まで親の私を驚かせてくれると言うのだろう?
「これで元に戻ったお~? 御飯は出て来るお~?」
…………うむ。
でも、何てか少しホッとする。
こう言う風な所を見せていると、まだまだ私が母親として、娘に色々と教えて上げないといけないんだな……って、思えたりもするからだ。




