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怒れる山神【19】

 どちらにせよ、山神様がメイちゃんを相手に遊んでやると言う構図がしっかり出来上がっていた。

 

 攻撃するつもりであるなら、とっくに攻撃する事が出来る山神様と、全く隙を見出だす事が出来ずに相手の出方を必死で見据えるメイちゃん。

 この時点で……私の中では既に勝敗が決まっていたと思えた。


 実際にやって見なければ分からない部分もあるし、段違いの実力差をひっくり返していまうまでの奇跡が起こらないとも限らないんだが……そんな幸運が、早々都合良く起こるとは思えない。


 この勝負……どう考えてもメイちゃんが負ける。


 ぐむぅ。

 どのタイミングでメイちゃんを助ければ、メイちゃんが傷付かないで済むかな……?


 早くも敗色の思考が、私の中で構築されていた頃、


『モグモグッ! お、おおおっ! 美味しい! 美味しいおおおっっ!』


 何か、ウチの娘が絶叫していた。

 歓喜に湧く喜びの声を、爆発的に上げていた先を見ると……なんか、セツナさんが作ったのだろう食事を、がむしゃらに食べていた。

 

 どうやら和食かな?

 お茶碗に白米……味噌汁と山の幸っぽいオカズが用意されていて、それをアリンがむさぼる様に食べていた。


 ……いや、ちょっと? アリンちゃん?

 あんたは、この状況でどうしてそこまで食欲に忠実な行動をする事が出来るのっ!?


 一瞬の気の緩みが命取りになるだろう、壮絶なにらみ合いが展開されている一方で、花丸元気に白米を口に掻き込む三歳児。

 この……余りにもギャップのある……あり過ぎる二つの光景に、私はどんな表情をして良いのかで真面目に苦悩した。


 てか、どうしてアリンはセツナさんから御飯をめぐんで貰っているのだろう?

 さっきまで、メイちゃんにノックアウトされて気絶していたセツナさんを、小枝で突ついていた所までは見ていたのだが……多分、予想から察するに、その後にアリンがセツナさんを治療魔法リカバリィで助けたお返しとして、料理を振る舞っているんじゃないか? と、考える。


 それにしても、結界とか張られているのに……その外に出る事が出来るのか? しっかりと御飯を用意してたセツナさん。

 一体、どんな方法を使ってアリンの食事を用意してくれたのかは分からないが、仕事が早い巫女さんだと言う事だけは分かった。


 これで、お姉ちゃんと言う呼び名に異様な固執さえしなければ、完璧な巫女さんなのかも知れない。

 まぁ、巫女の格好をしていると言うだけで……実際にここの巫女をしているのかどうかまでは分からないんだが。


 閑話休題そこはさておき


 見事な空腹状態になっていたアリンは、


『美味しいお~! ありがとうだお! 山のおばちゃん!』


 ほっぺに白米を付けた状態でセツナさんに答えていた。

 瞬間、セツナさんのこめかみに怒りマークが生まれた。

 同時に、アリンのお茶碗を神速で奪い取る。


『ふぁっ! お、おばちゃん! 何するんだおぉぉっ!』


 いきなりお茶碗を奪われたアリンは、急に半べそになってセツナさんへと叫んだ。


 すると……セツナさんは、怒りマークを付けながら……でも、笑みを作ってからアリンへと言う。


『アリン? お前には助けて貰った礼として、食事を施してやった……が、しかし? 一つだけ大切な事を間違えている!』


『間違え? アリン、何も間違えてないお?』


『ぐはっ!……き、気付いていないとは……これは重症だな』


 キョトンと不思議そうな顔になって言うアリンがいた時、セツナさんは血反吐でも吐きそうな勢いで倒れ込み、右手で胸元を擦りつつも、左手の人差し指でこめかみを触りながら毒吐きを入れた。


 重症と言う言葉を、心の底から吐き出していたっぽいが、私からすればアンタの方が重症だと思う。


『良いかい? 女性と言うのは繊細な生き物なんだ? ほんのちょっと……アリンからすれば、些細な部分であっても、言われた本人は心の深い部分を抉られたような気持ちになってしまう……分かるか? アリン?』


『なるほど~』


 説明して行くセツナさんの言葉に、アリンは頷きだけ返していた。

 きっと、全く分かってない。


 断言出来るね!

 あの顔は『なるほど、わからん!』の、顔だ。

 しかし、三歳児なりに気を遣ったのだろう。

 何より、ここで素直に頷いておかないと、ヘソを曲げたセツナさんがお茶碗を返してくれそうにない。


 よって、アリンは分からないけど『なるほど~』と、分かった振りをしていた。

 アリンの学習能力は人一倍なのだが、こう言う事に関しては物覚えが悪い。

 きっと、興味もないのだろう。

 その気持ちが分かるだけに、私としても特に何かを物申すつもりはない。


 しかし、アリンが一定の理解を示したと思ったセツナさんは、すっかり気を良くして、


『そうかそうか! やっぱり、子供には最初からしっかりと物を教える必要があるんだな。そこは私も少し失念していたよ』


 ニコニコ笑顔でお茶碗をアリンに返すと、


『ありがと~! おばちゃん!』


 最高の笑顔でアリンは言っていた。

 セツナさんの顔が、再び凍っていた。

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