怒れる山神【15】
『話は纏まった様だな?』
そう答えたのは山神様。
相変わらず流暢な精霊語を口にはしているが、話の流れをちゃんと理解していると言う事は、大陸共通語を話す事は出来るのだろう。
そうであるのなら、私的には大陸共通語の方を使って欲しいと言うのが正直な所だったりもするんだけど……まぁ、良いか。
私はどっちの言葉であっても理解する事が出来るし、大陸共通語でないと困るのは、現時点でメイちゃんだけでしかないからなぁ。
……と、そんな事を、私が胸中でのみ考えていた時だった。
ブゥゥゥ……ンンッッ……
周囲が変わった。
正確に言うと、周囲にあった物がぼやけて見える様になった。
これは……一体?
『少しばかり、特殊な空間を作らせて貰った』
周囲を見渡した私へと、山神様は言った。
……はぁ?
私はポカンとなったね!
一体、どんな仕組みなのか知らないし……それこそ、土着振興とは言え神様らしい特殊能力ではあったんだけど……だ?
『もしかして……これって、私達は山神が作った空間の中に閉じ込められたと言う事か?』
表情こそ平静を装っていた私であったが、内心は穏やかでなど居られない。
もし、そう言う特殊な空間であったのなら、確実に私達が大きなハンデを負う事になってしまうからだ。
……くぅぅっ!
神様のクセに、なんて卑怯な技を使って来るんだよっ!
こう言うのは、悪魔とか妖怪が使って来る物なんじゃないのかっ!?
『案ずるな、人間。これは互いの戦闘で周囲の物が壊れない為の防護手段に過ぎん……決して、お前達が不利になる為の物ではない』
完全に山神をディスっていた心中を見透かした感じで、山神が私達へと補足を入れて来る。
……うーむぅ。
確かに、山神様の言い分は分かる。
何せ、ここは山神様が住む神社の境内。
厳密に言うと、境内の裏側でもある。
そんな所で派手な戦闘を開始してしまえば、嫌が負うにも境内に被害が出る可能性があるだろう。
逆に言うと、私の魔法もここでは使い放題と言う意味にも繋がるのだが……ここらに関しては未知数の部分もある。
私自身も、良く理解していない空間でもあるのだが……どうやら、これは結界の一種なのではないかと予測される。
言うなれば、結界の内側と外側の空間を完全にシャットアウトする壁の様な物を張り巡らした物ではないかと、私なりに予測した。
つまり、完全に異次元の空間にいる訳ではなく、単純に防御壁を張っただけではないか?……と言う事だ。
簡素に言うと、剣聖のシズ等が使う『剣聖の護り』とかと同じ代物なのではないか? と言う事だ。
そして、この予測が正しいのであれば、この空間で向こうに有利な何かが働くと言う事はないだろう。
単純に、純粋に境内への被害を考慮して張ったと言う事になるからだ。
同時に思う部分もある。
これが防御壁であったとして?
私が本気で放った魔法に、ちゃんと耐えられるだけの堅牢さがあるんだろうか?
シズの剣聖の護りレベルであれば、間違いなく耐え切るだろう。
何せ、みかんが放った隕石衝突魔法とか言う、アホ見たいな魔法にも耐えた程だ。
宇宙魔法の一つでもある隕石衝突魔法なのだが、あんなのを発動させる事が出来るのは、私が知る限りでみかんだけだし、隕石が衝突しても傷一つ付ける事が出来ない、無敵の防壁を作り出せる存在も、私が知る限りでシズだけだ。
そう考えると……この防壁が、どの程度の防御力を持っているのかも、少しだけ気になる所だ。
超龍の呼吸法を発動させた状態で超炎熱爆破魔法を放った時に、この結界が破壊されてしまったら……多分、境内なんて塵一つ残らない様な気がする。
…………。
す、少しはパワーをセーブして置こうか。
変な請求書を貰うもの嫌だし……。
私は周囲の結界を軽く見据えつつ……結界の心配なんぞをしていた頃。
「何処からでも掛かって来なさい…………へぶっ!?」
いつの間にか、メイちゃんとセツナさんの戦闘が始まっていた。
境内の裏側にある、比較的広い部分で、メイちゃんとセツナさんの戦いが展開されていたのだが……ああ、これは一発KOなんじゃないか?
余裕綽々の状態で、高飛車に気取った台詞を言った一秒後に、強烈な右ストレートを貰っていた。
メイちゃんは、戦闘が開始したら相手の言葉に耳なんか貸さないから、気を抜くと一瞬でぶっ飛ばされるんだよな。
……私も、いつぞやの特待生試験で経験したよ。
そう言う所は、もう少し軟化しても良いんじゃないかな?……って、思う。




