怒れる山神【14】
そもそも……三歳児の言ってる事に、ここまで真剣になって怒っているコイツらの知能レベルが知れる。
まぁ、良いや。
『山神さんよ?……お前らは少しリダ様をなめてやがるな? 流石に同じ山のよしみであってもイラッと来るぜっ!?』
呆れる私がいる中、大猪のクサイがいきり立ってみせた。
……うむ。
『良く言ったクサイ! お前の義理堅さを見せて貰ったぞ!』
にっこり言った私は、猪のクサイにグッジョブしてやった。
『あのぅ……リダ様? だから、俺の名前はクサンジュでありまして……』
『なぁーに! 安心しろ! この私がいる限り、この程度の連中らに負ける事はない!』
『いや、そこは信頼しておりますが……クサイはやめてくれませんか?』
面倒なヤツだな! お前は獣臭いんだからクサイで十分だろうが!
そう思った私は、クサイの言葉を軽やかにスルーした状態で山神へと顔を向ける。
そして、ビシィッ! っと、指を差してから言ってやった。
『じゃあ、山神! お前よりも私の方が力が上であると言うのなら、川の精霊を許して欲しいと言う、私の提案を聞き入れてくれるか?』
『ふん! 良かろう! やれる物ならやって見ろっ!』
挑発にも近い……と言うか、完全なる挑発ではあっんだが、アッサリ触発される山神様。
なんだよ……こんなに扱い易い相手であるんなら、最初からこうして置けば良かった。
内心で思い、顔では好戦的な表情を一切崩す事なく、山神の前に立つ私がいた……その時だった。
「待ったぁぁぁっ!」
私と山神様の間に割って入る形でメイちゃんがやって来る。
……え? またなの?
前回の魔狼の時と同じく、やっぱりバンザイする形で私と山神様の間に入って来た。
「何なのメイちゃん? そのネタはさっき一回見たし……やっぱり意味不明な一発ギャグだから、やめて欲しいんだけど?」
「だから! 一発ギャグじゃなからねっっ! これの何処に一発ギャグ要素があるのか、私も聞きたい位だからねっ!? ともかく、その勝負は私にやらせてよっ!」
「……は?」
ポカンとなる私がいた。
メイちゃんは精霊語が分からない筈だと言うのに、どうしてこれから山神様と戦う的な流れになっていた事に気付いたと言うのだろう?
「これから私はあなたをはっ倒します! って感じの空気が、何となく出来てたじゃない? それにリダお姉ちゃんなら、絶対にそう言う方向に持って行くじゃないっ!?」
「最後のは聞き捨てならないんだがっ!?」
かなり真剣な顔になって言うメイちゃんに、私は思わずぼやきにも近いツッコミを入れてしまった。
まぁ、実際に一触即発状態になっていた事は認めるし……そう言う空気になっていた事も認めるけど……だからと言って、私だから喧嘩するのが当たり前的な感覚を持つのは勘弁して貰いたい。
何故なら、私ほど平和主義な人間はいないからだっ!
『なんだ?……小娘? お前が私の相手をすると言うのか?』
間に割って入って来たメイちゃんを見て、山神様が何処かつまらない声音を口から漏らしてみせる。
確実に不服そうな口調だった。
『お前は、ここのボスではないだろう? 一番強い訳でもないと言うのに……この私に喧嘩を吹っ掛けるとは……身の程知らずも甚だしいとは思わないのか?』
「ねぇ、なんて言ってるの? お姉ちゃん?」
呆れ口調の山神様を相手に、メイちゃんがそれとなく私へと翻訳を求めて来た。
やっぱり精霊語って、覚えておくべきだと痛感しちゃうね。
仕方ない、軽く要点だけ教えるか。
「弱いから戦いたくないそうだ」
「ぶっ殺すっ!」
メイちゃんは瞬時に怒り浸透状態になっていた。
いや……相手は山神様なんだから、その程度の事は言う訳だよ?
『ほうぅ……威勢の良い小娘だ……が、貴様程度の三下ごときに、この私がわざわざ出るまでもなかろう?』
山神はメイちゃんを見下す様な態度で答えた後、近くにいた巫女さんへと目配せをする。
同時に、アイコンタクトで動いた巫女さんは、メイちゃんの前へとやって来た。
そして言う。
「貴様の相手は、この私……セツナがやってやろう。なぁに……私もまだまだ現役のお姉ちゃんである所を、丁度、そこの子供に見せたい所だったんだ」
しっかりとした大陸共通語でメイちゃんへと言って来た。
てか、この人……ちゃんと人間の言葉を使う事が出来たのかよ。
そして、まだおばちゃんと言われた事を気にしているのか……いい加減、そこから離れて欲しい所なんだけど?
「へぇ……あなたはちゃんと人間の言葉を使う事が出来たんだね? 私としては凄く助かるよ」
スペシャル好戦的な巫女さん……セツナを前に、メイちゃんもまたやる気満々の表情を浮かべていた。
現役のお姉ちゃんについての言及はしなかった。




