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怒れる山神【13】

『これで分かったであろう?……しかし、人間? お前は不思議なヤツだ。これは川の精霊が仕出かした大罪でこそあれ、人間のお主には全く関係のない話だろう? それなのに……どうしてそこまで川の精霊を庇う? 不必要な土下座までして……』


『知らなかったからです! てか、これを知ってたのなら、むしろ川の連中……と言うか、諸悪の根元を取っ捕まえて来て、ここで地べたにキスさせてます! その上で、私も土下座かも知れませんがっ!』


『だから言っておる。お前は関係あるまい? そこまでする理由を教えてはくれんか? 場合によっては私の怒りも幾分かは緩和するだろう』


 山神様は興味を示す形で私に言う。

 

 そう言われても……ね?

 正直、私が必死になって土下座までしている事には、そこまで意味はない。

 ただただ、純粋に……これで、人間と仲良くなって行く切っ掛けにさえなってくれるのなら、この頭なんざ幾らでも下げてやるだけの話なんだから。


『えぇと……人間とあなた達が友好的ではないので、少しでも仲良くなりたいと思っての事……と述べて、あなた方が信用してくれるかどうかで葛藤しております』


 取り敢えず、それっぽい風に言い方を変えて口を動かして行く私がいた。

 ……まぁ、あんまり変わっていない様な気もするんだが。


 ついでに言うのなら、私の言葉が余りにも意外だったらしい。


『それは正気か? 人間が? 大した力を持たない人間ごときが、私達と仲良く?』


 ポカンとなった挙げ句、


『ぷっ……ふははははっっっ!』


 思い切り高笑いをして見せた。


「……? この狼は、どうしていきなり笑ってるの?」


 そこでメイちゃんが不思議そうな顔になって私へと尋ねて来た。


「そうだなぁ……私が、仲良く出来ませんか? と言ったら笑って来た」


「なにそれ?」


 軽く説明した私の言葉に、メイちゃんはポカンとなってしまった。

 まぁ、言いたい事は分かる。

 私も、どうしてここまで人間が馬鹿にされないといけないのかで悩んでいた所だったのだから。


『非力な人間が意気がるなよ? 友好だと? 数がいなければ何も出来ない無力な人間ごときが、我ら山の民と同等の扱いを受けるつもりでいたと言うのか? おごりも、ここまで来ると傑作だのうっ!』


 ハイテンションで、さも滑稽だと言うばかりに叫んでいた山神は、言ってから居丈高に笑う。


 ……うーむぅ。

 どうやら、こいつ等にとって人間ってのはゴミ虫程度の非力な存在で、自分達の方が圧倒的に上だと言う感覚らしい。


 まぁ、自然界では良くある光景だ。

 序列的な力の順位みたいな物があって、そこは完全無欠の縦社会。

 序列の下に位置する存在は、序列の上位には絶対服従なのが常識の世界だ。


 その上で行くのなら、人間の序列は最下位なのかも知れない。


 ……しかし、まぁ。


 仮にその法則が成り立つのであれば、そこまで面倒じゃない。

 答えは、至ってシンプル。


 弱肉強食の序列が罷り通るのであれば、その上位に食い込めば良いだけの話で。


 ……でも、あの落書きだけは何とかしないとな。


 うーむぅ。 

 ど~しよ?

 確か、徐光液だけはバッグに入れて来たから、あれで消せないかなぁ……。


 けど、さりげなぁ~くネイルやってるのバレそうで恥ずかしいなぁ……メイちゃんとかは目敏めざとく気付きそうだし、それはそれでビミョーな空気が生まれて来そうで怖い……。


 ……と、私が珍妙な悩みを胸中で抱いていた頃、


『非力じゃないお? むしろ、ワンコの方が弱いお? 良く分からないけど、これはフラウちゃんの言ってた負け犬の遠吠えなのかも知れないお?』


 ウチの娘が、まぁ~た余計な一言を。

 そして、要らん知恵を愛娘に吹き込んでたペッタン子にもイラッと来るんだがっ!?


『なんじゃと? この私を何と言った? ワンコだと? 子供だからと言っても、私は容赦しないぞ?』


 案の定……と言うか何と言うか……山神様は怒りを露にしてアリンを見据えた。

 神様の割りに、沸点の低いお方の様だ。


『馬鹿なヤツだ……この私をおばちゃん呼ばわりした天罰が、早くも下されたみたいだなぁ?……ふふふ』


 その隣にいた巫女さんは、不敵な含み笑いを色濃く作って私達に答えていた。

 このお姉さんも、おばちゃんと言われた事を根に持っていたらしく、山神様に敵意を抱かれているアリンのさまを見て、如何にも愉快そうな態度を見せていた。


 こっちもこっちで……何てか大人気ない。

 こんなのが、神聖なる存在の仲間なのかと言うと……何だか妙に複雑な心境になってしまう。

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