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怒れる山神【9】

「何て言うか、これぞ山神って感じの所に住んでるんだな」


 私は、軽く周囲を見渡しつつも、自分なりの感想を口にする。

 ぐるっと木々で覆われている、のぼり坂の頂上。

 そこに、社の様な物が存在している。

 これだけ山の中にあると言うのに、遠目から見る限り社は思いの外立派だ。

 

「そうだね……なんて言うか、神秘的な感じがする」


 私の近くにいたメイちゃんも、ちょっとだけ驚いた目をみせては周囲を見渡していた。


「食べられそうな物はなさそうだお……」


 アリンちゃんはさっきからそればっかですねっっ!?


 三歳児なんだから仕方ない事かも知れないが、アリンは完全に空腹状態な自分を一切隠す事はなかった。

 神秘的な社があっても、腹の足しにならない以上は興味の対象外なんだろう。

 どこまで食い気が先行しているんだと言いたい。


『山神は、あの上にある建物におります』


 そうと答えていたのは、大猪の……。


『うむ、案内ごくろう、クサイ』


『クサンジュです! リダ様!』


 そんなに怒るなよ……私は名前を覚えるのが苦手なんだ。

 無駄に図体が大きい猪と言う他を抜かせば、なんだか妙に獣臭いと言う事以外に、これと言った特徴のないクサイが私達を案内していた。


 もちろん魔狼もいる事はいるが、コイツは私に対して妙に反抗的なんだよなぁ……。

 やれやれ……私が何をしたって言うんだ?

 お前にやった事なんて、精々爆破した事ぐらいだろうに。

  

 他方の猪のクサイは、存外私に友好的でもある。

 多分、私を裏切ると血まみれになって死ぬ呪いが効を奏したのだろう。

 我ながら、地味に卑劣な真似をしてるなぁ……と、良心が痛む部分もなくはないのだが、要は私を裏切らなければ良いだけの話で、ちゃんとしっかりと言う事を聞いていれば私の加護を受けられると言うメリットもある。


 私だって悪党ではないのだから、そこまでメチャクチャな事を言うつもりもないので、純粋にメリットしかないと思うのだが……この狼は何がそんなに気にくわないのだろう?


 何にせよ、従順になったクサイを案内役とする形で山神様の元へと向かって行く。


 比較的勾配がある物の、石で出来た階段がある分、進むのは楽だった。


「思った以上に大きいね」


 石段を上って行き、いよいよ山神様の住んでいるだろう社前にやって来てすぐに答えたメイちゃんの言葉通り、間近で見るとかなり立派な神社である事が分かる。

 こんな山の中にあると言うのに、しっかりと手入れもされていて……人っ子一人いないと言うのに、全然寂さびれている感じがしない。


 なんと言うか、常に誰かが近くで神社の管理をしているかの様だ。


『どなた様ですか?』


 ……とか思っていたら、声を掛けられた。

 まぁ、そうだよな?……これだけしっかりと手入れをしているんだから、やっぱり誰かが近くにいる訳で。


 神社の境内からやって来たのは、巫女さんの様な格好をした女性だった。

 見る限りで人間だな?

 

『私は、川の精霊に頼まれてやって来た者です。失礼ですが、あなた様は……?』


 境内からやって来た巫女さんの様な女性を見て、私が愛想良く声を出してみると、


『川の……ですか?』


 眉を地味にしかめてから声を返す。

 ……なんだろう? 妙によろしくない空気が漂っている気がするんだが?


 まぁ、魔狼の口振りからしても、山神が川の精霊を嫌っている事は間違いないのだから、その関係者でもある巫女さんも川の精霊を出す私達には、あまり良い印象を抱く事が出来ないのかも知れない。


 それだけに、私としても苦笑混じりに友好的な表情をやんわりと作りながらも口を開こうとしたが、


『セツナさん。確かに川の連中は悪い事をしたのかも知れないけど……せめて、話程度はしてくれないか?』


 私の口より先に、大猪が巫女さんへと言って来た。

 どうやら、口利きをしてくれるらしい。

 

 ……うむ。


 思えば、こいつは地元の住民……と言うか、地元の猪だ。


 もしかしたら、それなりに顔が効くのかも知れない。


『おだまりなさい。あなたの様な山の暴れん坊を相手に、どうして話し合いが通じると思うのです?』


 ……でも、ちょっと雲行きが怪しいぞ?


『なんだとっ!? こっちが下手に出ていれば……調子に乗りやがって!』


 いやいやいや!

 駄目だ! この猪! ただ、獣臭いだけのヤツだ!

 思った私は、慌ててクサイの前にやって来ては、愛想笑いで巫女さんへと口を開いてみせた。


『短気な猪ですいません……ここからは私が話をさせて頂きたいかな、と』


『お引き取り下さい』


 巫女さんは、にべもなく答えた。

 完全無欠の門前払いを喰らうとは、まさにこの事だな。

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