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怒れる山神【4】

 最初は話し合いで解決しようと思っていたけど、段々面倒になって来てしまった私は、半ば強引に族長精霊から情報を引き出す事にした。

 

『……で? 話をする気になったか?』


『…………』


 右手をピタリと族長精霊の前に当てた状態で尋ねると、今にも卒倒しそうな勢いで絶句しつつも、コクコクと頷きを返して来た。

 その隣では、カワ子が『あばばば……』とかって、顔を蒼白にしながらもガタガタ震えていた。

 顔では『こんな野蛮な人間なんか見た事ないよ!』的な感じの表情を作っていたけど、見なかった事にした。


 果たして。


「今日のか~たまは、ユニクスより酷いかも知れないお……」


 フラストレーションが爆発していた私の状態に、かなりドン引きしているアリン。

 そんな顔をされると、か~たまのガラスハートが軋むから止めて欲しい。


 他方のメイちゃんは至って普通の顔をしていた。

 ……うむ。

 どうやらメイちゃんは、私の気持ちを良く理解してくれている見たいだ。

 

「そう? いつもこんな物だって、フラウ先輩から聞いてたけどなぁ?」


 ペッタン子ぉぉぉぉぉぉっ!

 アイツ、本気で私を何だと思ってるんだ? アホなの? 実地試験の相棒役をやめてやろうかっ!?


 周囲に、私を理解してくれる者が皆無と言う……実に切ない状況である事を、知りたくなくても知る羽目になってしまった私は……しかし、開き直る形で族長精霊へと詰め寄る。


『本当は、私も手荒な真似をしたくはないんだ……素直にありのままを言いさえしてくれれば、私だって鬼じゃない……そう! 鬼じゃないんだ!』


 私は鬼ではない部分を強調して答えた。

 やっぱりさ? 誠意って大切じゃん?

 べ、別に……アリンがドン引きして、母親として泣きたくなったから……とか、そう言う理由は少ししかないんだからな?


『素直に言えば、爆発しないか?』 


『さっきからそう言ってるだろう?』


 切実な目をして……額から嫌な汗をドバドバ流して言う族長精霊に、私はこれでもかと言うばかりに慈愛を込めた笑みを満面に浮かべてやった。

 これで、少しは優しくて淑やかで、可愛い女の子に見える事だろう。


『知らないんだ』


『爆発したいのか?』


『だ、だから! 本当に知らないんだ! どう言う訳か? いきなり山神様の関連する連中達が私達を目の敵にする様になって! こっちもこっちで、何が起こってるのか分からないまま、こうして仮説集落で他の連中に見付からない様に隠れてるんだ!』


 かなり必死になって、口早くまくし立てて来る族長精霊がいた。


 ……ふぅーむぅ。


『その言葉は、信じても良いのか?』 


『私はお前ら薄汚い心を持つ人間ではないんだ! そんなアホの様な嘘を……あああっ! 痛い痛い痛いっ! いきなり何をするんだぁっ!』


 確認の為、念を押す形で尋ねた私に、族長精霊が安定の雑言を口から吐き出していたので、親指と人差し指で族長精霊の頭をつねって見た。


 人形みたいな大きさしか無いので、私の指だけで顔を覆ってしまう状態になっていたが、問題はない筈だ。


 ちゃんと顔の横を、親指と人差し指で押さえていたから口は動くし、つねると言っても力はそこまで入れてはいない。


『別に痛がる程、指に力を加えていないと思うが? それともあれか? 実はエムっ気があって、もう少し力を入れて欲しいと思っているとか?』


『あるかボケェッ! こっちは本気で痛い……はぐわぁっ! いたいイタイ痛いっ! やめろぉっ! 顔がもげるぅっ!』


『もげるかどうか試して見ようか?』


『はぎゃぁぁぁっ! や~め~てぇぇっ!』


 ちょっとした冗談を言う私に、族長精霊が瞳からじょーっ! っと、蛇口が壊れた水道の様な勢いで涙がドバドバ流れていた。


 この一件によって……族長精霊の人間不信が、より一層強く根深くなったらしいが……気のせいと言う事にして置いた。




       ○●◎●○




 山の精霊VS川の精霊と言う構図で始まった、精霊同士のいざこざを仲裁する……筈だった私ではあるが、事態はどうにも妙な方向へと舵を切っている様に感じる。


 フェンリルの話を聞く限りでは……山の精霊が、山神様を味方に付ける事が出来る程の大義を以て、川の精霊を攻めている。


 対する川の精霊は、全く以て皆目見当も付かない状態だった。


 双方の意見をまとめると……私が予測出来るのは、主に二つだ。


 まず、一つ目。


 前者は、山の精霊が何らかの勘違いないし、意思の不一致等々の誤解をしている……かも知れないと言う事だ。


 族長精霊がとぼけている様には見えないし……そこまで器用な演技が出来る様にも見えない。

 そうなると、本当に何でこんな事になっているのか? その心当たりすら予想出来ない状態なのだろう。


 そうなれば、山の精霊側で川の精霊達も知らない何かを曲解してしまった可能性がある。

 どんな曲解をしたのかは知らないが、その結果……今の様なおかしな事態へと発展してしまったと予測する事だけは出来た。

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