怒れる山神【1】
魔狼との激戦は、私達が勝利をもぎ取った。
私の機転から生まれた、咄嗟の素晴らしい好判断で魔狼の虚を突く事に成功したのだ。
……果たして。
虚を突いた一瞬を見逃す事なく、超炎熱爆破魔法を魔狼に叩き込んだ末……私達は、見事打ち倒す事が出来たのであった。
「それにしても……やっぱりリダお姉ちゃんって凄いねぇ。うるさいから黙らせるつもりで出した魔法で、簡単に魔狼を沈めるとか……学園魔王の異名は伊達じゃないよね!」
……いや、そこはちょっと空気読もうか?
メイちゃんが感心する感じで唸り声を上げていたけど、そこは気にしなくても良いだろう。
ともかく、私の魔法を受けた事で一発KOしたクローン魔狼は、現在ロープでグルグル巻きにしておいた。
下手に逃げられても困るからな。
同様の理由から、
『さっさと縄を解け人間! 私が何をした!? 無抵抗かつ善良な精霊を束縛するとは、やっぱり人間は邪悪で姑息で野蛮な生き物だっ!』
ついでに族長精霊も縄でふん縛った。
『族長……ぷぷっ……危害を加えないと言ってるのに……くすくす……頓珍漢な事ばかり言って、無駄に抵抗するからそうなるんですよ?』
『笑うなぁっ! 笑うんじゃないっ! 良いか? 私は誇り高き川の精霊にして、その族長を任されているんだぞ? こんな事してただで済むと思うな?……つか、カワ子! 貴様も同罪だっ!』
縄でグルグル巻きになっていた族長精霊を見て、注意がてら正論を口にしていたカワ子に、族長精霊が額に怒りマークを付けて怒鳴っていたけど、余談程度にして置こう。
そこはさておき。
カワ子の台詞にもあったとは思うんだが……この誇り高き族長様は、持ち前の人間不信と臆病さが祟って、自由を与えると全力で逃げ出すからな。
もう、面倒だから縄で縛って、ミノムシにしていた。
他方の魔狼は、アリンが治療魔法を発動させた事で意識を回復させる。
『これは何の真似だ?』
目が覚めて、即行睨んで来る魔狼がいた。
まぁ、睨みたい気持ちも分からなくもない。
目が覚めたら、ロープでがんじがらめにされていたんだからな。
けれど、私からすれば……だ?
『見ての通りだ。お前は私を倒そうとしてただろう?……なら、その逆の状態になっても、文句を言う事など出来ない訳だよなぁ……?』
私はニィ……と、含み笑いを作った。
「か~たま……その笑い方はやめて置いた方が良いお? なんだか、ユニクスを見てるみたいだお~?」
え? それは嫌だな!
アリンが少し引いた顔になって言って来たのを見て、私は少しばかり自分の行動に気を付ける事にした。
娘に教えられる事って、やっぱり色々ある物だな。
「そこは……以後、注意して置こう。それより……だ?」
私はアリンに答えてから、魔狼に顔を向ける。
『お前には色々と聞きたい事がある。まず、最初に……どうして川の精霊を襲った? コイツ等が一体、何をしたって言うんだ?』
『それは、本気で言っているのか?』
私の問い掛けに、魔狼は少し驚いた声音を返して来た。
まるで、知っていて当然と言うばかりだ。
『こっちも、色々あってな……本当なら、知っていて当然の事まで、全く聞く事が出来なかったんだよ』
『なるほど。冷静に考えれば、川の精霊は他の精霊達よりも人間を忌み嫌っている……そう考えれば、貴様等人間に事の次第をわざわざ説明する訳もないのか』
肩を竦めて答えた私に、魔狼は納得加減の声音で言って来た。
しかし、それでいて不思議だとも思ったのだろう。
『コイツ等から、何も聞いていないと言う事は分かった……が、だ? それだけ邪険な扱いを受けていると言うのに、どうしてコイツ等を助けようとする? お前達にとって、なんのメリットもない様に思えて仕方がないのだが?』
『確かにないさ? 頼まれたカワ子……そこにいる川の精霊とだって、ついさっき会ったばかりだし、私が知っている事は山の精霊と川の精霊が珍しく喧嘩している……って、事だけだったしな?』
『ほう……たったそれだけの理由で、ここまでの事をしているのか』
私の言葉を耳にして、魔狼は少し飽きれた感じの声を吐き出した。
……うーむぅ。
どうにも事情が分からないが……もしかしたら、川の精霊側に過失があるのに、私が一方的に庇っているだけな状態に見えるのかも知れない。
二度言う様になるが……なんと言っても、事情も知らないまま首を突っ込んで来ているからだ。
ちゃんと事情を聞けば、私のやってる事はかなり恥知らずな行動をしているのかも知れない。
少なからず、魔狼の雰囲気からすると、その可能性が高かった。
……果たして。
『ふふ……ふはははははっっ!』
魔狼は豪快に笑った。




