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初めての冒険【18】

『族長! 何処かに知能でも落として来たのですかっ!? 今のは、私ですら呆れる事をほざいてましたよっ!?』


『どうしたの、カワ子っ!? 人間の肩を持つなんて……はっ!? もしかして……洗脳っ!?』


 ああ、もう嫌だ……。

 何処まで疑り深いんだと言いたくなるまでに懐疑の目でしか口を動かさない族長精霊に、流石の私も辟易して来た。


 この場にいる全員が、想定外の声を耳にする事になるのは、ここから間もなくの事だった。


『こんな所に居たのか……ふふふ、なるほど。川の精霊が川から離れた挙げ句、集落を作るとは……相当追い込まれているのだな』


 不敵な語気を感じる声が、私達の耳に転がって来た。

 ……なんだ?


『……っ!?』


 他方、カワ子は逸早く気付いては、凄まじい勢いで私の背中にやって来ては、


『先生! やっちゃって下さいっ!』


 いきなり、私に向かって叫んで見せる。

 どうでも良いが、いつから私はお前の先生になったと言うんだよ?


『あわわわわ…………』


 他方の族長精霊は、死人にも等しいレベルの蒼白さで、ひたすら怯えていた。

 その表情を見る限り……どうやら、族長にとっても寝耳に水状態だった様にも感じ取られた。


 まぁ……良いさ。

 例え知っていたとしても、この疑り深い精霊は、私に真相を口にするとは思えないからな。

 場合によってはこっちが騙される可能性すらある。

 

 ……なら、最初からこの族長精霊をアテにしない方が良さそうだ。


 それに……まぁ。


『お前は、色々と事情を知っていそうだな?』


 声がした方向へと顔を向けた私は好戦的な笑みを作ってから言う。


 やけに禍々しい……と言うか、悪魔的な気配を感じると思っていたけど……。


『なんでお前の様な魔狼フェンリルが、こんな所にいるか知らないが、正直少しだけ驚いたぞ』


 好戦的な笑みのまま、私は答えた。


 ……そう。


 そこにいたのは……無駄に邪気を放つオーラと、上位悪魔すら畏怖してしまうだろう不穏な気配を、当たり前の当然の様に放っている巨大な狼。

 私の経験上、こんなふざけた禍々しさを持つ巨大狼など、一匹しか知らない。


 魔狼まろう……フェンリルだ。


 大昔、神話の時代に生まれた、最凶最悪の狼で……オリジナルは山の様に大きいらしい。


 神話によれば、当時の最高神を一呑みにしてしまうまでに凶悪かつ強大な力を持つ怪物キングだ。 


 まぁ、最終的には最高神の息子に倒されてしまうんだけど……そこはさておき。


 さっき、私は『オリジナルは山の様に大きい』と表現していたと思うのだが……実は、ここがポイントだ。

 この世界に存在していたらしい、最凶最悪の巨大魔狼……フェンリルは、最終的に最高神の息子によって討ち取られてしまうのだが、その亡骸の一部を狂った魔導師が持ち出し、俗に言うクローンの様な物を造り出してしまったらしい。


 全く以て迷惑至極な話なのだが……このクローン魔狼が繁殖し、現在では世界のアチコチで発見されている。


 本当にとんでもない事をしてくれた物だよ……全く。


 クローン魔狼が誕生したのは、今から二~三千年以上も昔の話らしいのだが……この関係で、一部の山岳地帯にはクローン魔狼の群れまで生息しているとの事。


 まさに悪夢としか言えない話だ。


 ただ、唯一幸いな事は……オリジナルの魔狼フェンリルから比較すると笑ってしまう程に小さくて弱いと言う事だ。


 先程も述べたが、オリジナルのフェンリルは山の様に大きく……世界蛇の幼体でもあるヨルムンガンドよりも大きい。

 流石に世界蛇の成体・ミズガルズオルムよりは小さいかも知れないが……それは比べている物がアホみたいにデカイからであって、フェンリルが小さいと言う訳ではない。


 余談だが、兄弟には地獄の番犬ガルムが、姉妹には冥界の女神ヘル等がいる。


 ……と、まぁ。


 この様に……オリジナルのフェンリルであったのであれば、私も顔色を大きく変えていたに違いない。

 いつぞやニイガの街を襲ったヨルムンガンドや……ヒュドラとかと、強さ的には変わらないか、それ以上だからな。


 あの時はイリやみかんがパーティーメンバーとして居てくれたから何とかなったけど……現状で、あのレベルの化け物と遭遇したら、本気で洒落になっていない。


 最低でもアリンだけは逃がさなければ……と、命懸けの攻防になってしまう事、請け合いだ。


 ……が、私達の前で悠然と立っている魔狼は、オリジナルの力をほんの一部しか継承していない微力なクローン魔狼に過ぎない。


 私はオリジナルと戦った事がないので、オリジナルとクローンとの間に、どの程度の能力差があるのかは知らないが、ザックリと大まかに見て、オリジナルの十分の一あれば敢闘賞と言う所ではないだろうか?

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