【5】
まぁ、良い。
私が直接、鉄槌を下す事が出来ないのは残念だけど、そこは多目に見てやる事にしよう。
ともかく頑張れパラス!
「始め!」
二回戦が開始する。
まずは模擬刀を抜いたパラスが様子を見る形でユニクスを見据えた。
見る限り、ユニクスは武器を持っていない。
当然それは、杖や魔導器の類いもない事を意味し、つまりは無手での格闘術を主にしたバトルスタイルである事を無言で語っていた。
それだけに、相手の間合いは逆にせまい。
相手の出方を伺ってからでも遅くはないと、パラスは判断したみたいだ。
案外慎重だな、パラスは。
「どうしたの? 掛かって来ないのなら、こっちから行くけど?」
妖艶とも表現出来る高圧的な笑みを作り、ユニクスはゆっくりとパラスに近付いて行く。
瞬間、パラスが動く。
手にした模造刀で素早く彼女を突いた。
しかし、敢えなく空振りに終わる。
直後、ユニクスの正拳がパラスの顔面に飛んで来た。
紙一重ながらかわした。
「………」
パラスは無言のまま、ユニクスを見る。
なんだろう?
少し予想外の事があった様な……?
「……おや?」
やや、驚きにも似た顔のパラスを見て、ユニクスも意外だと言うばかりに声を出した。
「もう気付いたのかい? 巨人君」
……なんだと?
「お前、まさか……」
「お前も知ってるだろう? 全ての未来を予見出来る『彼』は、もう一年以上も前から、こうなる事を予測していたのさ」
さも当然、かつ……愉快に語る彼女がいた。
「………」
パラスは再び無言になった。
そして、模擬刀をしまい、こう答える。
「降参だ」
……は?
思わずポカンとなった。
見れば、周囲の観客も唖然としている。
一体、何が起きたって言うんだ……?
「勝者・ユニクス!」
イマイチ盛り上がりが掛ける中、ユニクスの勝利宣告がされる。
観客席からは、軽くブーイングが起きていた。
気持ちは分からなくもない。
私が何も知らない観客であれば、やっぱり同じ感じでブーイングを飛ばしてやりたくなるからだ。
しかし、違う。
ユニクスはパラスの正体を知っていた。
そして何より、予見の話もしていた。
闘技場の選手席からではあるが、私の耳は色々と特殊だ。
百メートルや二百メートルの距離ならば、回りがどんなにガヤガヤしていても、ちゃんと聞きたい言葉だけを聞き分けて、その話のやり取りだけをピンポイントで聞く事が出来る。
それだけに……今の会話は、聞き捨てならない。
あの高慢知己な高飛車女は……フラウの先輩だった筈。
そうであれば、確実に人間である筈なのだ。
なのに……それなのに。
「……どうなってるんだ?」
私は思わず独りごちてしまった。
色々な謎を残したまま、二回戦の第一試合は幕を下ろした。
仮にユニクスが人間だったとして、元々のパラスと同じく学園を壊滅させようとしている側だとすると……敵は魔族やそれ以外だけではなく、同族である人間もいると言う事になる。
人間が事実上、世界を統治している世界を忌み嫌う人間がいると言う事なのか?
それとも、別に理由が……?
全く解けない謎の迷路に迷い込んだ気分だ。
本当に何がどうなってるんだか。
思いはするが、こればかりは現時点では解明出来ない謎に感じる。
ともかく、今は次の試合を観戦する事に専念しよう。
二回戦第二試合はルミ姫様ともう一人のシード権を持つ相手。
全回の大会では二年生でベスト4まで勝ち上がった物の、さっきのユニクスに惨敗。
その後の三位決定戦に勝ち、前回は三位と言う結果を残した。
準優勝の人は三年生で、現在は卒業してしまったので、繰り上がり当選と言う形でシード権を獲得していた。
「よろしくお願いします~」
初戦での快勝があったせいか、少し余裕が出来て来たルミ姫様。
まぁ、肩の力が抜けた感じで、程よく緊張感が緩和されたと言う所か。
「さっきの試合、見てたよ。あんな魔法を使う人、始めてだった。悪いけど、最初から本気を出せてもらう」
他方の対戦相手は、黒髪の少年だった。
見る限りは剣士だった。
結構優しそうな顔をした少年だ。
わりとタイプかも知れない。
ほら、なんてか一緒に遊びにとか行ったら、細かいトコまで優しくエスコートしてくれそうな感じ。
うーむ。
こっちを応援しちゃおうかな?
「始め!」
ちょっとだけ、ルミ姫が負けても良いかなと邪な思考が生まれた私ではあるが、ちゃんと仲間を応援する形を取る。
い、いや……でも、私さぁ。
ショタっぽいのが割りと好みでさぁ!
え? 誰も聞いてないって?
ま……まぁ、ともかく試合だ!




