初めての冒険【17】
精霊と言う存在は、得てして人間に臆病な者が多い傾向にあるのだが、これはちょっと度が過ぎている様にも見える。
『ああ、もうっ! 面倒臭い!』
しばらく小競り合いの様な物をやっていた時、痺れを切らしたカワ子が、額に怒りマークを付けて族長精霊をぶん投げて見せる。
『え? ちょっと? な、なにをををををっっ!』
綺麗な背負い投げを喰らった族長精霊は、勢い良く投げ飛ばされて、
『へぶっ!』
私の胸元辺りに顔面を激突してから止まった。
『えぇと? 取り敢えず私も挨拶をするが、大丈夫か?』
『ひぃぃぃっ! すいませんすいません! 少しばかり頭が狂った精霊に投げられてしまっただけなんです! 命だけはお助けをっっっ!』
投げられていたのを見てたから、そんな事を説明されるまでもないと思うんだがな?
どちらにせよ、何もしていないと言うのに、早くも命乞いを初めて来た族長精霊。
コイツは……人間に、何か強烈なトラウマでも植え付けられたりでもしたんだろうか?
『大丈夫だ。私はアンタに危害は一切加えるつもりはないし……むしろ助けてやるつもりで、こっちにやって来ていたんだ』
私は、自分なりに友好的な笑みを作りながら答えた。
最低限、アイラインは丸みを入れて来ていたから、怖くはない筈だ!
スキンケアだって怠らず、乳液だけはちゃんと付けて来たから大丈夫だ!
それ以外は、時間がなかったから全然やれてないけど、元から可愛いから大丈夫だ!
『こ、怖い……目が鬼の様に釣り上がってるし……肌もなんか妖怪の様だし、全体的に鬼の様な……?』
ガッッッ!
族長精霊がそこまで呟いた所で、私は右手で捕まえてみせた。
『はわわわっっ! 何をするのっ!? 危害は加えないって言ったクセに、これは何なのっ!? やっぱり人間は姑息で嘘つきで下劣で極悪な下等生物なんだ!』
『やかましいわっっ! 人の顔みて怖いだの鬼の様だの、散々暴言吐いておいて! 殴られないだけまだマシだと思えよっっ!』
『ひぃぃぃっ!』
族長精霊は、啖呵を切る私へと真っ青な顔して両手で頭を覆った。
『……はぁ。本当にすいません……私達、川の精霊は人間が大の苦手で……族長からしてこうなので分かるかも知れませんが、他の仲間達も似たり寄ったりな有り様なのです』
程なくして、私の近くまで飛んで来たカワ子が申し訳ない顔になって、嘆息混じりに答えて行く。
…………。
それって……私がどんなに仏心を出しても、心を開いてくれないんじゃ……?
ついでに言うのなら、未だカワ子と族長以外の精霊を見ない理由が分かった。
なんて事はない。
私達人間が怖いので、ひたすら雲隠れに徹しているのだ。
『ともかく、私は本当にアンタらを助けに来ただけなんだ……頼むからちゃんとした対話の場を、私にくれないか?』
困った顔になり、私が半ば懇願する形で族長へと言うと、
『……それなら、まずは私を解放してはもらえませんか?』
敵意しか感じられない顔で、私へと言ってくる。
さっき捕まえてから、ずっと私に身体を握られていたのが、かなり気に入らないらしい。
……まぁ、この状態で『対話の場をくれ』と言っても、説得力がない事だけは認める。
仕方ないので、パッと手の力を弱めようとしたのだが、
『待って下さい! そこで手の力を弱めたら、族長は逃げます! 全力で逃げます! へたれ女王の称号を与えられても一目散に逃げます!』
直後、カワ子が猛剣幕で私へと言って来る。
刹那、手の力が弱まり、自力で私の手から脱出した族長精霊が、素早く明後日の方向へと飛び去ろうとし、
ガッッッ!
再び、私の手に収まった。
……ほ、本当に、コイツらは……っ!
『離せぇぇぇつ! この鬼! 悪魔! 下劣な人間めぇぇぇっ!』
再び私に握られた族長は、自分の臆病さを完全に棚に上げて、これでもかと言わんばかりに悪態を吐いていた。
『お前が逃げるからそうなるんだろうがっ! もう良い! お前とはこの状態で話をする! お前達は山の精霊と喧嘩している見たいだが……その詳しい事情を聞きたいんだ』
『え? どうしてそんな話をあなたが?……も、もしかして、カワ子を脅して……?』
呆れ半分の状態で尋ねて来た私の質問に、族長精霊は持ち前の被害妄想を全力で発揮してから、顔を青ざめてみせた。
『アホかっ! どうして、お前らの厄介事を、わざわざ脅してまで聞いてやらんと行けないんだっ! そうじゃなくて、カワ子の方から相談されたから、こっちに来ているんだよっ!』
『えぇぇっ! カワ子に脅されて場所を聞いて、ここまで攻めて来たのですかっ!?』
お前の耳は、一体どうなってるんだよっっっ!
私は、この族長に耳鼻科を薦めたい気持ちで一杯になった。




