初めての冒険【9】
やたら誇張するのがコイツの得意技なんだろうと、話の半分以上は虚構と決めつけて聞いていた話の内容を軽くはしょると……こうなる。
現在、山の精霊と一触即発状態にあるらしい。
……私はポカンとなった。
理由は色々ある。
例えば、精霊には色々と勢力争い的な物と言うか、縄張り争い的な物が全くないと言う訳ではない物の、他の種族から比べると恐ろしく少ないと言う所だ。
イタズラ好きの性悪精霊の様なカワ子ですら、互いの領地とかで大きな闘争をする様な事はしないだろう。
人間の様に、相手の勢力や国力が落ちたからと言う理由で、適当な口実をでっち上げては、簡単に相手の国へと侵略を開始する程、好戦的な存在ではないのだ。
次に、川の精霊と山の精霊は、往々にして仲が良いと言う事。
山と言えば川だ。
そして、この逆に川と言えば山を連想する事が出来る。
何が言いたいのかと言うのなら、それだけ山と川と言うのはセットで一緒にされる事が多いと言う事だ。
精霊の世界でも実は同じで、山の精霊と川の精霊は良くワンセットで考えられる事が多い。
それだけ一緒にいる事が多い訳だな?
他の精霊と比較しても一緒にいる事が多い山と川の精霊だけに、お互いに相手を信用してるし、一番の相棒として同胞感覚で仲良く付き合っている。
ここを加味するのであれば、山の精霊が川の精霊へと喧嘩を売るとは到底思えない。
しかも、カワ子が言うには……山の精霊が一方的に川の精霊へと宣戦布告をして来て、川の精霊を一網打尽にしてやろうと言う勢いなんだとか?
針小棒大な物言いである事を念頭に耳を傾けていると仮定しても、これは穏やかではない話ではあった。
そこでカワ子は……
『山のあん畜生共を、コテンパンにして欲しいのです!』
……ってな事を、私達にお願いしたいらしい。
……オイオイ。
『なぁ? 一つ良いか? 本当の話、それは一方的に山の精霊が悪いのか?』
『もちろんですよ! あの腐れ山神が、何を思ったのか? 川の精霊は邪悪だ! とか、いきなりほざいて来て、私達川の精霊を根絶やしにしてやると宣戦布告して来たのですから!』
どうにも胡散臭い何かを感じた私に、カワ子は心外を露骨に顔へと押し出してから、ありったけの憎しみを怒気に変換してがなり立てていた。
見る限りだと、本気で言っている様に感じる。
きっと、嘘ではないのだろう。
……まぁ、真実も混ざっている『だけ』かも知れないが。
こいつの態度と口振りから推測すれば、自分達の都合に合わせて脚色を入れる事など、呼吸と同義語のナチュラルさで、しれっと言って来そうだ。
だからこそ、話半分でカワ子の話を聞いていたのだが、
『お願いします! このまま行くと……私達、川の精霊は……山の下劣な畜生精霊に蹂躙されてしまうのです! 首チョンパされて部屋に飾られたり、剥製にされて部屋に飾られたり、夜のお供として毎晩漫才やらされて、部屋に飾られたりしてしまうのです!』
必死の形相で、私達へと頼み込まれてしまうと、私の気持ちも揺らいでしまう。
しまうんだけど……最後のだけはどう言う状況なんだよ? と、ツッコミを入れたい。
『か~たま……可愛そうだお~。このまま行くと、川の精霊さん達が、山の精霊さんの部屋の飾り物になってしまうんだお~!』
切実に言ってるんだろうけど、何故か心に響かない微妙な私がいる中、アリンが真剣な眼差しになって私へと口を開いて来た。
まぁ、最初の二つだけに焦点を置けば、かなり残虐な事をして来る事だけは確かであるし、それが事実であるのならば、私も仲裁に入りたいとは思う。
けど、なんか胡散臭いんだよな。
『なぁ、アリン。今の話が全部本当なのかを確かめてからにしないか? どうも……こうぅ……か~たまは、簡単に信じてはいけない気がするんだ』
『酷い! 私が嘘を言っていると思っているのですかっ!? こんなにも正直で素直で聡明な精霊をしているこの私を!?』
そう言う事をしれっと言う事が出来るから信用出来ないんじゃないか。
カワ子の言葉を鵜呑みにする形で、完全に感化してしまったアリンへと冷静に応対していた私に、カワ子がオーバーリアクションで嘆いてみせた。
『そうだお! カワ子ちゃんは、きっと素直で正直な精霊なんだお! 頭はバカだけど、嘘は言わないんだお!』
『そこ! 一番大事な所を曲解してるお子ちゃま! アンタに私の何が分かるって言うのっ!?』
声高に私へと説得を試みていたアリンへ、カワ子が不本意極まるダミ声を飛ばして来た。
三歳児に真顔でバカと言われてしまう様な精霊なんだから、少しはバカである自覚程度は持ち合わせても良いんじゃないか? とは思う。




