初めての冒険【8】
ジタバタもがいていたカワ子だが、そこで意思疏通が可能と言う、まさかの展開に驚きを隠せなかったのだが……これはチャンスだと思ったらしく『私は良い精霊です! 良い精霊だから離して下さい』ってな感じの事を、ウルウルした瞳でアリンに訴えたらしい。
この訴えに、アリンもすぐに反応して手を離した。
結果、カワ子はアリンの束縛から逃れる事が出来た訳なのだが……その隙にピューッ! っと飛んで逃げれば、それで全部が丸く収まったのだが……そうはならなかった。
カワ子的に、自分を散々怖がらせてくれたお礼がしたかったらしい。
……って、オイ。
全然、良い精霊じゃないぞ……ったく。
アリンに仕返ししてやりたくなったカワ子は『そこの川岸に綺麗な石があるんですよ?』と、嘘を教えた挙げ句『え? そうなの? 見たいおーっ!』って感じで、川岸までやって来た所で、アリンの背中に沢蟹を入れたらしい。
背中に沢蟹を入れられて驚いたアリンは『ふわぁっ!? な、何だお? 何だおぉぉぉっ!?』とかって感じで驚き、しばらくジタバタもがいていたらしい。
当初の目的が完遂されたカワ子は、その一部始終を『クスクス』と含み笑いで見ていたらしい。
普通に最低な精霊じゃないかよっ!
一頻りジタバタしていたアリンを見て満足したカワ子は、そのまま何処ぞかへと飛んで行こうと思っていたのだが……どう言う訳か? いきなり川に向かって背中からジャンプした挙げ句、そのまま着水して川の流れに呑まれてしまったので、流石に慌てた。
以後『あわわわ……』と、顔を青くして、流されて行くアリンを見ていたらしいのだが……その直後、私が水柱を出す勢いで泳ぐ姿を見て目がテンになったらしい。
その超人的な光景は、カワ子にとっても一生忘れられない光景だと言う。
更に、流されていた筈のアリンが宙にフワリと浮いた事にも衝撃的だった。
カワ子の常識では、三歳児は空を飛ばない。
そりゃそうだとしか言えない話だ。
挙げ句、水柱を出す勢いで泳いだ私が小岩と衝突して気絶する事で、恥ずかしい事にもそのまま流されて行く私へと文字通り飛んで行き、そのまま華麗なる救出劇を果たした。
これにカワ子もポカーンとする事しか出来なかったと言う。
そこで、カワ子は思ったらしい。
もしかしたら……今、起こってる問題を、この人間達なら解決してくれるかも知れない……と。
つまる所、厄介事を抱えていたカワ子が、上手く行けば私達に助けて貰えるかも知れないと言うあざとい気持ちから……元来であれば臆病で人間に姿を現す事がない筈の精霊が、わざわざ私の前へと姿を現した事に続いて行くのだった。
うむ、地味に長かったな。
この様な経緯から、姿を見せては私達にお願い事をして来るカワ子。
正直……このイタズラ精霊は、絶対にろくでもない性格の持ち主だと思えてならないのだが『か~たま? カワ子のお願いを聞いて見ようお~?』と、どう言う風の吹き回しなのか? やけに献身的なアリンがいたので、話ぐらいは聞いてやろうかと考える。
騙された挙げ句、背中に沢蟹まで入れて来た性悪精霊の頼みをわざわざ聞いてやる必要もないだろうに……全く、ウチのアリンちゃんは地味にお人好しだな。
まぁ、自分の娘にとんでもない事を仕出かした、お騒がせ精霊の話に耳を傾けている私自身も大概ではあるんだが。
何にせよ、私とアリンはカワ子の話に耳を傾けていた。
一方、他の面子はキャンプの準備や夕飯の調理などを初めていた。
まさかのキャンプではあったが……元から冒険者になるつもりで学園に通っていた面々だけに、それ相応のノウハウは持っていた。
二年から冒険者アカデミーに編入して来たルゥだけ、少し何をして良いか分からず、幾分かオロオロとしていた模様だが。
しかし、これが初キャンプでもあるルミですら、一学年から学園に通っていただけあって、すんなりと段取りを組んで作業をしていた。
それを見よう見まねで、ぎこちなく作業に加わるルゥ等がいたのだが……まぁ、取り敢えずは置いておく。
こんな感じで、他のメンバーがキャンプの準備を着々と進めて行く中、私とアリンだけカワ子の相談に耳を傾けていたのだった。
後で、この埋め合わせをしておかないとな。
周囲の面々にキャンプの準備を替わって貰う形で聞いたカワ子の話は、端的に言うと……精霊の危機らしい。
なんともはや……随分な大風呂敷を敷いて来たなぁ……?
きっと、このふざけた精霊の事だ。
かなり大仰に、私達へと針小棒大な与太話を吹き込んでいるに違いない。
そう思った私は、話半分程度にカワ子の話に耳を傾けていた。




