初めての冒険【6】
後少し遅れていたら大惨事だった!
相変わらずレズの個性を全面的に押し出して来るユニクス。
正直、そこだけは改善の余地が存分にあると言わざる得ないぞ……全く。
「待て、フラウ! 私は私なりにリダ様の事を誠心誠意、心から身の心配をしていたのだ! そんな……これが、私にとってのリダ様とのファーストキスになるからって、ドキドキしてた訳じゃない! 暫く口を洗わないでいようとか、全然考えていなかったんだからなっ!」
……なるほど。
お前がどんな考えだったのか丸分かりだな。
言えば言うだけ、ドツボに嵌まっていたユニクスを前に、私は途方もない呆れを感じていた。
取り敢えず、フラウに非難をぶつけていたみたいだったので、聞かなかった事にした。
……きっと、真面目に対応したら疲れるだろうし……。
私が半眼になっていた頃、アリンが私の前に戻って来る。
「か~たま、大丈夫?」
みんなを呼んで来たアリンは、三歳児なりに心配してたのだろう顔になって私を見据えた。
見れば、泣き晴れた目をしている……ぐむ。
「ごめんな……か~たま、アリンを泣かせちゃったな。本当はアリンを助けようと思ってたんだけど、逆に心配させちゃったな」
私は苦笑しつつ、アリンの頭を撫でていると、
「アリンちゃんはね? 小岩に激突して気絶したリダを必死で川から助けてくれたんだから……ちゃんとお礼を言っておいた方が良いよ?」
近くにやって来たルミが、やや真剣な顔になって私へと言ってきた。
……うぅむ。
本当に立場が逆転していた様だ。
なんて格好の悪い話だろうか?
「大丈夫だお! か~たまはアリンが溺れたから助けに来てくれたんだお! アリンがか~たまを助けるのは当たり前なんだおー!」
ルミの言葉を聞いて、アリンは笑みを作って……ああ! 健気な愛娘の台詞に、私のハートが爆発してしまいそうだ!
衝動的に、私はアリンを自分の胸元に引き込んだ。
そして、満面の笑みを作ってからアリンに言う。
「ありがとうアリン。お前のお陰で、か~たまはピンピンしてるぞ!」
「うん……良かった……本当に良かったんだおーっ!」
言うなり、アリンは泣いていた。
きっと、安心したら涙が出て来たのだろう。
本当に、何から何まで可愛いくて……可愛いくて、か~たままで涙が出て来そうだ!
『……あの、本当にすいませんでした』
美しい母と子の触れ合い劇場が展開されていた時……予想だにしない声が、私の耳に転がって来る。
……え?
思わず目が丸くなってしまった。
それと言うのも……この言葉は……精霊語?
唐突にやって来た精霊語に、キョトンとした顔になってしまいつつ、私は声がした方向へと顔を向けると、
『わざとやった訳ではないのです。ちょっと可愛い子が川にやって来ていたので、軽くイタズラしちゃえ!……って、少しだけ……本当にちょこっとだけ、おどかそうとしたら、予想以上に驚いて川に背面飛びされちゃって、そのまま川の流れのように穏やかに突き進んでしまったのですっ!』
何やら、言い訳としか言えない台詞を、聞いてもいないのに次から次へと口から吐き出して行く、謎の精霊が私の眼前に浮遊していた。
……これはどう言うオチだ?
取り敢えず分かった事は、
「お前が、私の娘にイタズラして、川に流した張本人か?」
私はギンッ! っと、思いきり睨んでやった。
『はわわわっ! ご、ごめんなさい! ほ、本当に! こんな事になるなんて、全然全くこれっぽっちも予想出来なかったんです!』
すると、空中に浮いていた精霊らしき少女が、何度も何度も頭をペコペコと下げて来た。
少女と形容したが……精霊の場合、その種族によっては性別がない者もいる。
簡素に言うのなら、全員が女みたいな精霊もいるし……逆に全員が男みたいな精霊もいる。
何故か?
こいつは、根本的に誕生の仕方が、自分達とは大きく異なるからだ。
精霊の大半は、雌雄が交配する事で繁殖する訳ではなく、自然の中から勝手に生まれて来る事がほとんどで……つまり、産みの親は大自然である事がほとんどだ。
よって、自然の恵みが豊富に存在するエリアであれば、何処からともなく勝手にポコポコ産まれて来る。
今の様な、空気の美味しいエリアであるのなら、精霊達にとって格好の住み家であり……同時に格好の繁殖エリアでもあるのだろう。
まぁ、だからして……精霊がここにいる事、その物には余り驚かない。
そもそも、コイツら精霊は……空気がなくても、その環境に合った精霊が勝手に産まれて来ては、自然と数を増やして行く、摩訶不思議な存在だからな。
ついこないだ知った事だが、宇宙にも産まれて来る『宇宙意思』なる、精霊の宇宙バージョンがいる程だ。
そう考えると、精霊って言う存在は、最強の生存能力を保持しているのかも知れない。




