初めての冒険【3】
「こらっ! アリン! 駄目だろうっ!? そんなに間食ばかりしちゃ!……その饅頭、何個目だ?」
「んーとぉ…………二つ目!」
アリンは精一杯、色々と頭を捻ってから、その答えを出した。
つまり、精一杯考えての嘘だ。
「本当に二つ目か? どう考えても五~六個は食べてた様な気がするんだが?」
「アリン、そんなに食べてないお~っ! ゆっくりモグモグしてたんだお~っ!」
かなぁ~り怪しい顔になって尋ねていた私に、アリンは必死になって言う。
……でも、視線は私に合わせる事がなかった。
そして、思いきり目が泳いでいた。
目は口程に物を言うとは、良く言った物だ。
どう考えても嘘を言っている事は間違いないので、どうやって本当の事を聞いてやろうかと思案に暮れていた所で、
「多分、それで十個目かな?」
メイちゃんが、その答えを教えてくれた。
「ふぁっ! メイちゃんが裏切ったおおおおおおっっっ!」
直後、アリンが愕然と呆然をあわせ持った顔をしていた。
三歳にして、初めて絶望の二文字を心に刻んだ……様な顔になっていた。
「……はぁっ!?」
他方の私はポカンとなった。
食いしん坊にしても限度があるだろうにっ!
てか! あんたの小さい身体の何処に十個も饅頭が入るんだよっ!
「アリンッ! バカなのっ!?」
「ご、ごめんなしゃ……」
くわっ! っと、怒り心頭状態で怒鳴る私に、アリンはシュン……とした顔になる。
ちょっとだけ言い過ぎたかな?…………い、いや! ここで、甘い顔ばかりしてると、アリンの教育によろしくない!
そもそも、この年で間食を覚えてしまったのなら、思春期になった頃に絶対苦労する!
きっと、体重計が己の宿敵になってしまうのは、火を見るよりも明らかだ!
ここは、多少……心を鬼にしても、しっかりと言って置かないとだ!
「もう、ご飯食べれないじゃないのっ!……全く……無駄に食い意地が張ってるとか……誰に似たんだか」
「リダに決まってるじゃないのさ?」
嫌味も含めてアリンへと小言を垂れる私に、フラウが平然と悪態を吐いて来て、
「……はい、リダ」
ニコニコ笑顔で、ルミは私に手鏡を渡して来た。
「これは何の真似だ?」
「誰に似てるか? って言うから、現物を直接見せて上げようと思って」
ルミはロイヤルスマイルのまま、私にのたまって来た。
つまり、アンタに似たんだとロイヤルスマイルでしれっと言って来たのだ、この天然お姫様はっ!
「まぁ、この際……アリンの食い意地が私に似ていようがアインであろうが関係ないし、気にもしてない……ないけど、私はそこまで食い意地は張ってないからな!」
「バリバリ気にしてるじゃないの」
「やっかましいぃぃぃっ! ともかく、アリン! 今日はもう饅頭はナシだ! 明日の朝食をちゃんと食べてから、一個だけ食べなさい!」
しれっと、人の痛い所を突いて来たルミの言葉を軽く流しつつ、私はアリンへと叫んでみせる。
「うぅ……分かったお~」
アリンは凄く反発したい気持ちで一杯になりつつも、私の言葉に頷いてみせる。
うむ! それでヨシ。
「素直に返事が出来たな? 偉いぞ~!」
「お? 偉いお? アリン、良い子?」
「もちろん良い子だ! アリンはか~たまの大切な可愛い子だ!」
言うなり、私はアリンを抱き締めていた。
アリンも、特に抵抗する事なく、素直に抱き締められている。
いつもの事だからと言うのもあるが、アリンもこれで結構甘えん坊な所があるから、素直に抱っこしても怒らない。
むしろ、嬉々として抱き締められている。
子離れが当分出来そうにない子煩悩な親の気持ちが、何となくだけど分かった気がした。
「それで、か~たま? キャンプって、なぁに?」
抱き締められたまま、アリンは私へと尋ねて来る。
「うん? キャンプか? お外でテントって言う仮の家みたいなのを作って、そこで寝たり話をしたり、ご飯を食べたり、遊んだりする感じかな? 冒険者の仕事として来ている時は少し違うけど、今回みたいな場合はそんな感じになる」
「おおおおっ! 面白そうだおぉっ! か~たま! アリン、キャンプやりゅ~っ!」
アリンは瞳をキラキラと輝かせて……ああ、いけないぞアリン……幾ら私が愛娘に弱いからと言って、明らかにおかしなキャンプを不毛に実施するとか、そこまで常識知らずな事は出来ないからな?
「アリン……実は、それは難しいんだ」
「お?」
「この森には、ものすご~く怖いお化けが出るんだ」
「こ、怖いお?」
「そうだ……アリンみたいなちっちゃい子なんて、一口でパクリだぞ?」
「こ、怖いおぉぉぉっ! そ、そんな怖いキャンプなんて……絶対やるおっっ!」
「そうかそうか! そうだろう、そうだろう? そんな怖いキャンプなんて、絶対やるに決まってる…………ん? なんだって?」
私はうんうんと何度も頷いてから、ハニワみたいな顔になってしまった。




