表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
404/1397

初めての冒険【2】

 まぁ、経緯はさて置き。

 現在、この試験会場を兼任している宿舎の周囲にいるモンスターのレベルは、まさに段違いだ。


 つまり、だな?


「ルミがキャンプとかしてみたい気持ちは分からなくもないけど……ここら辺のエリアで、わざわざテントを張ると言うのは、自分から魔窟まくつの中に入って行く無謀な人間になっちゃう訳だよ」


「そうかぁ……残念だなぁ……」


 フラウの説明を受けたルミは心底残念そうな顔になって肩を落とした。

 他方、それはルゥも同じだった。


「山の方にハイキングと聞いていたので……もしかしたらキャンプもあるのかな? なんて、少し期待してたのですが……そうですか……カレーパーティーをやりたかったですし、みんなで寝袋に入って川の字になって寝たり、寝袋に入ったまま簑虫みのむしゴッコと洒落込みたかったのですが……本当に残念至極です」


 簑虫みのむしゴッコって、何だよ?

 何となくだが、思考レベルがウチの三歳児と同じな気がするんだけど……どうだろう?


 ともかく、必要があるのなら仕方ないとしても、無意味にテントを張る必要はない。

 外のモンスターが強いなら尚更だ。


「……よし。じゃあ、今日はここで宿泊で良いな?」


 私は軽く安堵する形で、ルミやルゥへと答えた…………その時だった。


「強いモンスターが出るのっ!? それって、凄い修行になるよねっ!?」


 何か、余計な事をキラキラおめめで言う、頭のおかしな子がいた。

 後輩である事を考慮し、一連の話を大人しく耳に入れるだけだった拳聖の卵こと、メイちゃんだ。


 そんなメイちゃんは……どうしてそこまで興奮する事が出来るのか? 鼻息荒く意気込んでいた頭のおかしな子を、これでもかと言うばかりに周囲へと披露しまくっていた。


「いや、メイちゃんよ……修行になるかも知れないが、かなり危険だと思うぞ?」


 私は呆れ混じりになって言う。

 

「え? 大丈夫でしょ? だって、リダお姉ちゃんもいるんだし?」


「って、私もテントで寝るのかいっ!」


 メイちゃんの中では、私もキャンプするのが確定していた。

 いやいやいや!

 やる訳ないでしょっ! 無駄に強いモンスターがウロウロしているのが分かっているのに……外敵から守る事が出来る、ちゃんとした建物あるのにテント張るとか、可哀想な頭してる人間と誤解されちゃうでしょうっ!?


 私は、そこまで心身共に身体を張るボケをかます事なんか出来ない!


「悪いけど、私はそこまでの荒行は望んでないし、魔導師組合の人達から異端者の様な目で見られるだけの覚悟もないんだ」


「ええええっ! そんなぁっ! 折角の強敵と戦うチャンスじゃない? 山籠りとか、凄いロマンスを感じるじゃないっ!?」


 山籠りの何処にロマンスがあるんですかねぇ……?

 遮二無二騒ぎ出すメイちゃんに、私の目がミミズになっていた。


「お? キャンプって何だお~?」


 そこで、メイちゃんの近くでお饅頭を頬張っていたアリンが、不思議そうな顔になって私へと尋ねていた。

 てか、まだ饅頭を食べてたのか。

 この子は……全く、間食をし過ぎると夕飯が食べれなくなるから、あれほど無駄に間食するなと言い付けて置いたと言うのに。


 ああ……しかも、口にアンコが一杯付いてるし……もう! みっともないなぁ……。


 思った私は、ポケットからハンカチを取り出そうとしたが……フラウの鼻水がべっちょり付いているハンカチしかなかった事実に気付いて、


「ちょっと、フラウ……お前のハンカチ貸せ」


「へ? 自分のを使えば良いじゃないの?」


「私のは、お前の鼻水で汚染されてて使えないんだよ!」


「ひどっ! 私の鼻水は洗練された乙女の鼻水なんだよっ! そんなの綺麗に決まっ……あ、ごめんリダ。謝るから、その鼻水付いたハンカチを広げて、私に迫らないで!……ちょっ! それをどうする気っ!? ご、ごめんって! ちゃんと私の貸すから! 貸すから、そのハンカチを顔に向けて来ないでぇっ!」


 最終的に涙目になっていたフラウは、泣きべそのまま私に自分のハンカチを手渡して来た。

 最初から素直に渡していれば良い物を。


 フラウから手渡されたハンカチを手にした私は、アンコまみれになっていたアリンの口元を拭いて見る。


 ……全くもう……だらしないったら。


 ぶちぶちと心の中でぼやきを入れる私。


 しかしながら、綺麗になった口元を柔和に緩めた愛娘が、


「か~たま、ありがと~だおっ!」


 満面の笑みでお礼を言って来ると……心の中にあった闇色の感情が一瞬で吹き飛んでしまうから不思議だ。


 ……ふ。


 やっぱり、子供は何処か反則だよ。

 だって、こんなに可愛いんじゃ……本気になって怒れないじゃないか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ