初めての冒険【1】
「今日はキャンプだね!」
明らかにボケた事をのたまう姫様がいる。
魔導大国ニイガでは国の最高権力者として君臨し、国民の行く末を大きく左右する国の長……に、早々遠くない未来はそうなるだろうルミ女王候補。
だけど私には、頭のおかしな不思議ちゃんにしか見えない。
ちゃんとした建物があると言うのに、何をほざいてくれちゃってるんですかねぇ? このおバカさんは?
「そうですね! 今日は、川沿いにキャンプを張って、みんなでカレーパーティーにしましょう!」
そして、その隣にバカ二号が、鼻息を荒げて意気込んでいる。
何なの? ニイガ王家では流行ってるの? どうしてキャンプしたいの? アホなの?
瞳を輝かせて言ったルミの言葉に、三秒を必要とせず同調していたルゥがいた。
私は口をへの字にして言う。
「……いや、待て? これだけ豪奢な宿舎があると言うのに、どうしてわざわざ外に出てキャンプを張らないと行けないんだ? 水道もあるし、雨風はおろか寒さも凌げる立派な場所がちゃんとあると言うのに……どうしてわざわざテントを使わないと行けないんだ?」
「こんな山の中に来てるからじゃないの!」
眉を思いきりしかめて、吐息すら吐き出しそうな心情になっていた私に、ルミはしれっと言って来る。
草しか生えない台詞だった。
何ですか? あれですか? あなたは、山の中にやって来たら、どんなに立派な建物があっても、その隣でテントを張ってしまうタイプの人間なのですか? どんだけテントが好きなんですか? テントと一緒に結婚したいのですか?
「ねぇ、ルミ? ここに誘った私が言うのも変な話かも知れないけど……ここはリダの言ってる事の方が当たっていると思うよ……?」
そこでフラウが苦笑混じりに、やんわりと諭す様な声音で言う。
実地試験は、何だかんだで準備が必要で……順当に最終試験まで進んだ場合、数日の滞在が必要になる模様だ。
正直、そうであるのなら、もう少し色々と準備をして来た私ではあったのだが……しかし、試験会場にはちゃんと寝泊まりする事が可能な部屋が多くある。
元から、実地試験に数日の期間が掛かる事を想定し、試験者が宿泊する事を想定した部屋が設けられていたからだ。
こんな山奥だと言うのに、やけに大きな建物が建てられているんだな……と、妙に不思議になっていたのは、この施設が大人数の宿舎を兼任しているからだと説明されれば、なるほど……と、頷く事が出来る。
また、こんな山奥に、これ程まで無駄に立派な試験会場が設置されているのには、もう一つばかり理由があるらしい。
厳密に言うと、この施設が建てられた由縁と言うべきか?
最初、この施設に建てられた物は、レベルの高い魔導師が山籠りする為に建てた、自分の城だったそうだ。
魔導師ってのは変わり者が多いのだが……腕前が高くなればなるだけ、その傾向にある。
魔王クラスの魔導師にもなれば、山奥に城を作って己の研究に没頭する奴は……実はそこまで珍しい事でもない。
人里離れた山の中であれば、誰彼に邪魔される事もないので、一人で好き勝手に研究をする事が出来る。
だけど、妙な自己主張みたいな物はあり、往々にして……その手の輩は派手で大きな建物を好んで構築する。
大方、この建物も、反則的な魔導力を駆使して作られた、豪奢な建物なのだろう。
その魔導力を、もっと世の為に使う事が出来たのなら、世界に住む数多の人間に感謝されるだろうに……全く、魔導師のやる事は良く分からん。
そして、この関係もあって、次にルミやルゥの二人へと述べるフラウの言葉に繋がって行くのだ。
「この施設はね? 元々は魔王と呼ばれていた魔導師の城を改築して作られた施設なんだけど……その魔導師はマッドな狂人と言うか……ともかく、狂っているまでにおかしな研究をしていた人らしくてね? 強靭なモンスターを作る研究をしてたみたいなんだよ?」
「……え?」
フラウの言葉に、ルミはパチクリと目をしばたたかせる。
「もしかしたら……何だけど、さっきの人が『ここに来るまでの道程を記した招待状も、試験の一つだった』なんて感じの台詞を言ってたじゃない? これってさ? この施設に来る途中で遭遇するかも知れないモンスターと戦って、しっかり勝利する事が実地試験を受ける為の最終試験だったんじゃないかな? って、思うんだよね?」
フラウは至って真剣な顔になって答えた。
なるほど、それは可能性があるかもな。
私も冒険者の端くれでもある為、ここら一帯に生息するモンスターがどんな物であるのか程度は分かっている。
その上で言うと……確かにここら一帯のモンスターは、段違いに強い。
大昔に城を建てた魔導師が、強いモンスターを作る研究をした結果であった事は、密かに初耳ではあったんだけどな。




