魔導師組合からの招待状【21】
「あばばば……」
最終的に、口から泡でも吹きそうな状態になってしまった男は、私達に対して土下座してお詫びすると言う、おかしな解決方法で話が終わって行くのだった。
それら、一連の状況を見て……本来なら一番の当事者であったフラウはポカンとする事しか出来なかった。
最初の内は、空間転移魔法を、どの様にして誤魔化そうかで必死になっていた節があったのだが……それら諸々を完全に権力でごり押しする友人達の行動を見て、驚きと飽きれを程よくミックスした顔をしたまま、唖然とその場に佇む事しか出来なくなっていた。
きっと、こんな結末を迎える事になるなんて、フラウは考えもしなかったであろう。
ここに関して言うのなら、私も半分そんな感じだった。
まさか、あの世間知らずで天然な……誰とでも仲良くしたがるお姫様が、ここまで底意地の悪い言葉を使って、相手を遠回しにいたぶって来るとは思わなかったからだ。
これがユニクスとかであるのなら、まだ分かったんだがなぁ……。
もしかしたら……ルゥと一緒にいる事で、色々と影響を受けているのかも知れない。
まぁ、感化される部分も多少があるのかも知れないけど……人間、ここまで変わる物かね?
どちらにしても、ルミの嫌味な言い回しには驚かされたし、予想外だった。
けれど、私としては嬉しくもある。
やっぱり、親友が本気で困っている時に、しっかりと助けられる存在でないと、本当の友達とは言えないんじゃないかな?……と、私は思うからだ。
そして、その気持ちはフラウも一緒だった模様だ。
「えっと……ありがとう。リダ、ルミ、ルゥ」
少し照れ臭そうに笑ってから、フラウは私達にお礼を言った。
「当然の事をしただけだから、そこまで気にしなくても良いよ?」
フラウの言葉にニッコリ笑みで答えるルミ。
こっちは、しっかり瞳にも暖かな温もりを感じる笑みだった。
「安心して下さい。フラウさんが優秀な魔導師であるからと言って、ニイガの宮廷魔導師になって貰う為に、今から恩を着せて置こうと思っている訳では……少しありますが、今の所はマムが純粋に友人を助けたいと思っていたので加勢しただけです。ただ、今後はその限りではありません」
程なくしてルゥが、真顔でフラウに言って来た。
謙遜しているのか、本音を語っているのか? 良く分からない台詞だった。
そもそも……安心しろと最初に言っているのに、後半は全く安心出来ない台詞を語っているんじゃないかとツッコミたくなる。
「うん、ありがとうね!」
そんな私の胸中ツッコミをよそに、フラウは涙目になってルゥに何度も頷いていた。
……その台詞の何処に、そんな感動がっ!?
「私……この上位魔導師試験を突破する事が出来たら、ニイガの宮廷魔導師の試験を受けて見る事にするよ!」
まさかの就職希望!
瞳をキラキラさせて言うフラウに、私はちょっと……微妙な顔になってしまった。
まぁ……宮廷魔導師ってのは、世界でもかなり名誉な職だ。
魔力の高い貴族か、庶民であるのならば上位魔導師の資格がないと、そもそも門前払いを食らう職だ。
そう考えるのなら、世界でも魔導の最高峰でもあるニイガで宮廷魔導師をやる事が出来ると言うのは、この上ない名誉なのかも知れない。
……でも、私は嫌かな。
それはさて置き。
「実地試験の手続きは終了しました! 早速、一次試験の準備に取り掛かります。一次試験の実施は翌朝の予定になりますので、本日はこの施設で宿泊して頂けると幸いです!」
やけにハキハキとした声で言う、受付のお姉さんがいた。
一応、彼女の上司でもある男もいたんだけど、完全に真っ白となっていた為、従来の予定通り受付のお姉さんがフラウへと告知する。
……うむ。
一時はどうなるかと思った物だが、どうやら普通に試験を受ける事が出来るみたいだな。
試験は明朝か……。
…………ん? 何? 明朝っ!?
まさかの翌日試験に、私は目を丸くしてしまう。
見れば、近くにたルミとルゥの二人は、全くの想定外だと言わんばかりに唖然としていた。
他方、フラウは全く驚く様子もなく……むしろ嬉々とした顔で、
「はい! 頑張ります! よろしくお願いします!」
受付のお姉さんに頭を下げていた。
そんなフラウを見た瞬間、受付のお姉さんも反射的に頭を下げていた。
……どうやら、今までの話を近くで聞いていたのか、フラウもかなり偉い人間だと勘違いしている模様だ。
未来はどうなるか分からないが……今は、単なる受験生だぞ?




