【2】
「よし、全員揃ったな。じゃあ、授業を始めるぞ」
この時間の授業を受け持つ教師がやって来た所で、みんな整列してみせた。
中々の規律の良さだな。
これは会長として少し誇らしい。
でも、私を全員無視して来るのは勘弁してくれ。
教師の格好を見る限りだと、魔導師と言った所か?
比較的軽装だが、服には魔力を増幅する紋様が描かれており、着るだけで魔法の威力が上がるローブの様な物を着ていた。
「まずはウォーミングアップだ。そこの的に炎系の魔法を使用して当ててみろ」
教師がそう言うと、グランドの中央付近に小さな的が出現する。
ほうほう。最近の魔法の授業はこんな事からやるのか。
「方法はなんでも良い。壊してくれても結構。むしろ破壊する位のつもりで撃て」
中々、過激な事を言う教師だ。
こう言っては難だけど、あの的には明らかな細工がしてある。
一見すると、木で出来た小さな的にしか見えないが、実際は水の魔力がギッシリ濃縮された、水分の塊の様な代物。
よく見ると、的の紋様にはアラリエルの加護が施されていた。
いや、学生にあれを破壊とか無理すぎるだろ?
水の天使・アラリエルの力を多少でも使ってる時点で、C以下の冒険者の魔法では歯が立たない。
多分、この教師は紋様を描く事で、精霊や天使等から力を貸して貰い、そのエネルギーで一定の魔法を作り出しているのだろう。
まぁ、そこは良いと思う。準備さえちゃんとやれば実践でも有効だしな。私も結構使う。
もっとも、私が使う紋様は精霊でも天使でもなく、神々の紋様を使うんだが……やってる事は変わらないだろう。
違うのは威力くらいの物だ。
どの道、準備をしないと使えない関係もあって、使う事は出来るんだけど、私はあまり使用しない。
ただ、準備をしないと行けないと言う手間さえ気にしなければ、その能力はとても高い。
実際、教師の言われた通りに生徒達は自分なりのやり方で炎の魔法を作り、それを的にぶつけるも、的は焦げ目一つ付かない。
しっかり魔力を練った状態で、天使の加護まで準備して来た的を、その場の即興魔法で壊せと言う時点で、そもそもおかしいんだけど、教師は満足そうな顔で的を見ていた。
ああ、あれか?
初心者相手にドヤ顔したい口か?
いるねぇ、たまにそう言うの。
よく見るとオラもすこし黒ずんでるな。
ちなみに、オラとは守護霊の事だ。
これが黒いと性格が悪く、白いと性格が良い。
「どうした? 最近のお前らは少し努力が足りないんじゃないのか?」
教師は余裕の笑みで生徒達を軽く小バカにして見せる。
……ほ~。
それをやっちゃいますか?
会長さんにやってしまいますか!
一応、冒アカの生徒として入学した時、冒険者協会の会長である事は完全に伏せていた為、目前の教師が私をただの生徒だと認識しているからこその態度なんだろうが……いや、例え生徒だと思っていても、この態度には呆れる。
先生は先生と呼ばれる立派な人徳があってこその先生だぞ? お前は教師失格だ。
よろしい。
ならば、会長として相応の罰を与えてやろう。
「先生、ちょっとよろしいですか?」
私は作り笑いで教師の近くにやって来た。
「君は、今日からうちに来た転入生かな? すまないが、名前を教えてくれ」
まずは、自分から名乗る物じゃないのか?
そうは思ったが、敢えて笑みを崩さずに私は自分の名前を言った。
「リダです。リダ・ドーンテン」
「リダ君か………ん? リダ?」
私の名前を聞いた時、教師はふと何かに………あ。
ああああ!
ここは協会傘下の学園じゃないか!
思えば、ここの学園長はおろか、そこの理事長を傘下にしてる協会の会長の名前を、教師が知らないって事はなかった!
ちっ……迂闊だったな。
偽名くらい用意するんだった。
「どっかで聞いた事がある名前だな……どこだったか」
………おひ。
教師はひとしきり悩んでた。
あんたらを束ねるボスの名前くらい、ちゃんと覚えておけよっっ!
なんだろう、悲しくなって来た。
クラスメートからは無駄にシカトされるし、教師には自分の名前を忘れられてるし……ちょっと、涙出て来そうなんですけど!
いや、まて?
これはチャンスなんじゃないのか?
ここで、このバカ教師をギャフンと言わせれば、少しはクラスメートと仲良くなれるかも。
うむ! 我ながら名案!
「私の名前なんか、そこらに一杯いそうな普通の名前なので気にしないで下さい」
「そうだな。そうさせてもらう」
いや、ちゃんとそこは気にしろよ!
……まぁ、いいや。
取り合えず、本題はそこではない。
「先生、あの的って私達に壊せる造りだと思っていますか?」
コイツのおしおきが先だ。
私は相変わらずの作り笑いで質問した。
作り笑いとわかってるけど、やっぱりコイツに愛想を振り撒くのは気分が悪いな。最悪だ。