魔導師組合からの招待状【19】
「オラが……黒い?」
見ろっ! 男が怪訝な顔してルミを見てるしっ!
「ああ、すいません! なんかこの子、少しおかしな事を口にする癖がありましてねぇ!」
直後、私はアタフタと焦りながらもお茶を濁した。
恐らく、守護霊の事など知らないとは思うのだが……ここは曲がりなりにも魔導師組合の関連施設であり、目前の男は関係者だ。
ほぼ間違いなく、魔導師なんだろう。
そう言う奴なら、ちょっと調べればすぐに分かる事だし、ここで怪しまれたら即座に調べて、守護霊の意味が分かってしまうに違いない!
最初から意味が分かっていたとすれば、ハッキリ言って喧嘩を売ってるとしか言い様がない。
なんと言っても守護霊が黒いと言う事は、性格が悪いと言う意味になるのだから。
知っていたら、失礼極まりなり事をしれっと言っている事になるし、知らなかったとしても訝しがれば調べてしまいそうで怖い。
ただでさえ険悪なイメージを持たれていると言うのに、自分から油を注ぐ様な真似はしたくないと言うのが、私なりの見解だ。
……よって、ここは思いきり誤魔化した方が良いと判断した。
まぁ、あんまり大仰にやり過ぎても怪しまれてしまうかも知れないが。
「リダ? 何をそんなに驚いてるの? 私はありのままを素直に言ってるだけなんだけど?」
ルミはキョトンとした顔になって私に言う。
今、このタイミングでわざわざ相手に喧嘩を売ってるお前のKYっぷりに、私はドン引きしてるからなっ!?
「バカなの? いや、マジでアホなの? そこでそう言う台詞を言う時点で不適切だと思わないのか?」
「えぇ……素直に言う事が不適切とか、おかしいよ」
私の注意に、ルミは口を尖らせて言うと、
「そうです。マムの言う事は決して間違っておりません。誇り高きニイガ王家の姫が、その場の空気を読んで、相手の悪い部分を問いたださない……だ、なんてあり得ません!」
直後、ルゥが毅然とした態度で私へと言って来た。
己の格式や風格を全面に出して、いかにも名誉ある者の発言だと言い回している模様だが……要は、王族が庶民相手にどうして気を遣わないといけないの? と、言っている。
気位が高いのも問題だ。
どうした物かなと、胸中でのみ嘆息する私がいる中、
「ニイガ王国の……姫?」
男がポカンとした顔になってしまった。
ああ……そうなるのか。
ポカンとした態度をみて、それとなく納得してしまう私がいる。
ニイガは魔導師大国なのだが……実は、魔導を使った軍隊や、先進的な魔導技術が存在している他にも、魔導師組合にとっての本拠地がある場所としても有名だ。
……そう。
実を言うと、魔導師組合の本部はニイガにあったりもする。
これは、ニイガが魔導大国だからと言うのにも関連していた。
昔から魔導技術について他国よりも前向きで、魔導師組合の創設にも色々と補助金を出したりもしている。
その他にも、魔導師組合に協力的な国家でも有名で……魔導師組合と言えばニイガの組合で通るまでに有名だ。
何処の国家よりも献身的に助けていると言う事もあり、魔導師組合はニイガ国にだけは頭が上がらない。
簡素に言うのなら、ニイガ国の王族となれば……眼前の男にとって協会の会長よりも尊ぶべき存在でもあったのだ。
「まさか……そんな事が……」
未だに信じられないと言う顔になり……思わずルミを見つめていた。
「あのぅ……そんなに見つめられると……ちょっと、困ると言いますか……」
男に見つめられたルミは、少しばかり顔を強張らせて言うと、
「こ、これは失礼致しました!」
即行で平伏して見せる。
どうやら、ルミの顔を新聞か何かで見た事があったのだろう。
マジマジと見据えた彼は、即座にルミをニイガ王家の姫であると認めていた。
「ニイガ王家・第一王位継承権を持つ、プリンセス・ニイガ様が……まさかこの様な山の中にやって来るとはついぞ思わず、今の今まで全く気付く事が出来なかった御無礼を御許し下さい」
男は、かなりへりくだった態度と声音でルミへと答えていた。
……私とはえらい違いだな。
これでも、私はお前の組合を支えている上位組織の会長なんだけどなぁ……?
地味につまらない顔になってしまう私がいた所で、依然として強張った顔を作っていたルミが口を開く。
「ああ……えぇと、その……今日は、友人のお誘いでハイキングに来ただけなので、そこまで畏まらなくても大丈夫ですよ」
しれっと、ハイキングが目的だと言うお姫様。
まぁ……確かに、お前はそう言う感覚だったんだろうけど、他の連中は違うからな。




