魔導師組合からの招待状【16】
何となく、フラウに同情したい気持ちが膨らんでいる自分がいるのだが……きっと、この気持ちを正直に言ったら、フラウは絶対に腹を立ててしまうだろうし、良い気分にはならないだろうから、敢えて私の胸の中に留めて置こう。
それより、今はフラウだ。
ルミに慰められた事で、ユニクスから受けた精神的なショックから立ち直ったフラウは、ニコニコ笑みで窓口の前にいる受付の人へと魔導師組合からの紹介状を渡してみせる。
これは、ルミのお陰で気持ちが穏やかになれたからこその笑みでもあるのだが……それとは別に、魔導師組合の関係者でもある窓口の人へと愛想の良い姿を見せて置こうと言う気持ちもあるのだろう。
ユニクスもそうだが、フラウのヤツも、これでいて……中々にしたたかだ。
あざといは言い過ぎだとしても、やっぱり何処か計算して行動をする傾向にある。
もしかしたら、ユニクスの影響を多少なりとも受けているのかも知れないが……。
何にせよ。
「……え? こ……これは……っ!?」
窓口の向こう側にいた、係のお姉さんが、フラウの招待状を見て顔を青ざめる。
……? 何だ?
表情を見る限り、余り穏やかそうには見えないのだが?
「えぇと……どうかしましたか?」
どう考えても、妙な雰囲気を醸し出していた係の人を見て、フラウは思わず口を引き釣らせていた。
フラウからすれば、寝耳に水とでも言うべきか?
特段、何かした訳でもないのに、いきなり険しい顔をされた挙げ句、
「すいません! 少々お待ちください!」
いきなり待ったを喰らい……果ては、フラウが手渡した招待状を持って、何処かに行ってしまう。
何が起きているのか分からず、ひたすら動揺する事しか出来ないフラウがいた。
もちろん、私にもサッパリ分からない。
一体、何が起こっていると言うのだろうか?
「どうしたフラウ? あの招待状にカミソリでも入れたのか?」
「そんな物騒で陰湿なイタズラなんかする訳ないでしょ! 私はユニクスお姉じゃないんだから!」
動揺を隠せないフラウの緊張を和らげようと、冗談混じりで答えた私に、フラウは真剣な顔して叫んで来た。
直後、私の近くにいたユニクスが、不本意極まりない顔になってフラウへと反論する。
「失礼な事を言うな! 私がそんな幼稚なイタズラをすると思うか? もし、相手に悪意を感じる行動を書簡で表せと言うのならば、手紙を開けた瞬間に即死してしまう様な呪い程度は準備する! 開封しても、精々指の皮を軽く切る程度の、ちゃっちい真似なんざするかっ!」
「余計悪いわっ!」
「そうだよね……ごめん、私が悪かったよ」
「お前もそれで納得するのかよっ!」
物凄く威張る形で堂々と言い放つユニクスに、フラウは納得して謝っていた。
この二人の会話には、時々ついて行けない時があると思う。
「ユニクスお姉ちゃんなら、こんな細やかな嫌がらせじゃなくて、もっと……こぅぅ、相手を殺傷してやると言う憎しみがふんだんに込められた、無慈悲な物を用意するに決まってたよ。ありがとう」
「分かれば良いんだ」
それは、分かっては行けない事だと思う。
てか、ユニクス……お前、長い付き合いの妹分にすらそんな目で見られているのかよ?
そんなんだから、実地試験の相棒に私を選んで来たんだと思うぞ?
二人の会話を、呆れ眼で見据えていた私がいる中、係の人だろう女性が、なにやら上司と思われる男を連れて来た。
「お待たせしました……試験番号5963番、フラウ・フーリさんですね?」
「はい、そうです」
上司と思われる男性は、比較的礼儀正しい態度でフラウへと質問し、フラウも彼の言葉に相づちを打った。
「なるほど……ふむふむ。この年齢で筆記試験の成績もかなり上位で突破しているのだね……実に素晴らしい逸材だと思います」
「そんな……偶然、良い結果が出ただけですから」
軽く招待状にある書類へと目を通しながら言う男性に、フラウは照れ隠しの笑みをやんわりと作って見せた。
「……所で、一つ聞きたいんだが、この試験会場には、どの様な手段でやって来たのかね?」
「……へ?」
直後、穏やかながらも真剣な眼差しでフラウを見た彼。
これにフラウもキョトンとなってしまう。
同時に、フラウとしても返答に困る質問でもあった。
理由は簡素な物だ。
この世界の理として、人間は空間転移魔法を禁忌としている。
よって、人間が人間をしている以上、絶対に使用する事が出来ない。
これは法律がそうさせているのではなく、この世界における自然界の法則みたいなレベルで……現状では、どんなに頑張っても空間転移魔法を発動する事が不可能であったからだ。
「えぇと……空を飛んで来ました」
空間転移して来たと言っても嘘だと言われそうだったので、フラウは誤魔化し半分に男性へとそう答えたのだが、
「それは嘘ですね。このエリア一帯には強い結界が敷かれております。もし、空を飛んで来たのであれば、それを突破しなければならない……よしんば突破して来たとしても、結界を破った形跡が残る。まして、侵入した時点でこちら側も気付くと思うのですよ?」
男性はピシャリとフラウの嘘を論破して来た。




