魔導師組合からの招待状【15】
……まぁ、何にせよ。
今のユニクスが幾分かフラウに意地悪なのは、フラウがユニクスを相棒に選らばなかった嫉妬から来ている模様だ。
これも一種の愛情表現とも言えるのだろうか?
……愛情の数も、人の数だけ存在しているからなぁ……ここに関しては何とも言えない。
どの道、この試験期間だけであるのなら、私も目を瞑ってやる事にしようか。
意地悪と言っても、試験を妨害する様な真似まではしないだろうし……何より、細やかにフラウを泣かせる程度なんだろうから。
「嫉妬する気持ちは分かった……私もある程度までなら大目に見てやるから、試験期間が終わったのなら、ちゃんといつものユニクスに戻ってくれよ?」
「そこは御安心を。試験期間に少し意地悪をすると言うのは、飽くまでもフラウの性質を考慮して、敢えて心を鬼にしてやっているだけの事……多少、恨まれてもフラウの試験が上手く行くのであれば、私はそれで十分満足です」
「……そうか」
やんわりとした微笑みを作って言うユニクスに、私は一応の笑みを作って返答する。
一応と言う枕詞を付けたのは他でもない。
何となくだけど、言葉通りに受け取って良いのかで、妙な懐疑心を抱いてしまうからだ。
言いたい事は分かったし、額面通りの言葉であれば、何て素晴らしいお姉ちゃんなんだと誉めてやりたい所なのだが……妙に引っ掛かると言うか、綺麗事ばかりを意図的に並べている様に聞こえると言うか……。
嘘は言ってないけど、絶対に含みのある言葉に感じてしまう。
ユニクスが言ってると、どうしても疑いたくなってしまうのは、やっぱり普段からの素行が物を言ってる気がする。
決して、根っからの悪党染みた最低なヤツではないけど……普段から妙な画策と言うか、あざとい思考を呼吸するかの様にやって来るヤツだからなぁ。
「……あの? リダ様? 何故か、私の言葉をすごぉ~く疑っていたりはしませんよね?」
曖昧な頷きと感じたのか? ユニクスが怪訝な顔して私に尋ねて来た。
「いや……まぁ……少しは疑ってる」
「ちょっ! リダ様っ! そこは本当なのです! 今まで色々ありましたし、フラウを散々バカにして来た事は認めますが、現在のフラウを心から応援したいと言う気持ちも本音なんですっ!」
「……そ、そうな?」
「いや、だから、本当なんですってばっ!」
やけに突っ掛かって来るユニクス。
きっと本気で必死なのかも知れないが……元悪魔だしなぁ。
狼少年ならぬ狼魔女だったユニクスの言葉を心から信用出来ない心境になってしまうのは仕方ないんじゃないだろうか?
やっぱり……人間、誠実さってのは大切かも知れないな!
物凄く不本意な顔になっているユニクスを尻目に、私はある程度までは信じてやろうかと思いつつも、ルミに泣き付いていたフラウへと目を向ける。
泣き付かれたルミはフラウの慰めに徹したらしく、ようやく泣き止むフラウの姿があった。
でも、号泣した目尻はみごとに赤く腫れていた。
今だ潤んでいる瞳は赤い。
ついでに、頬は涙でぐちゃぐちゃだし、鼻水まで出ている。
元は可愛い顔をしていると言うのに……なんて大惨事な顔をしているんだろう?
こんな顔で窓口に行ったのなら、受付のお姉さんにギョッ! っとした顔をされてしまうだろう。
……やれやれ、仕方ないな。
「フラウ、取り敢えず涙と鼻水だけでも何とかしとけ。受付の段階から泣きべそとか……早々いないからな」
フラウに近付いた私は、それとなくポケットに入れたハンカチをフラウに手渡すと、
「あ、ありがとうぅぅっ!」
未だ泣きべそ状態だったフラウが、私のハンカチを手にして、涙を拭いてから、
「チーンッ!」
鼻をかんでいた。
…………。
いや、まぁ。
この世界にはティッシュなんて便利な代物はない。
だから、割りと一般的にハンカチで鼻をかんだりもする。
……するんだけど。
ハンカチを返して貰った私は、それとなくハンカチを開いてみる。
……鼻水がべっちょり付いていた。
…………うぁ。
どうしよう……近くに水道とかあるかな……?
あるいはゴミ箱でも良いぞ……?
何とも複雑な気持ちになる私がいる中、
「ありがとうリダ! ルミもありがとう! やっぱり友達って凄く凄く大切だね!」
満面の笑みで言って来る。
何を当たり前な事を。
ふと、こんな事を考えていた私がいたのだが……さっきのユニクスが言った昔話を加味すると、ボッチだった期間がかなり長かったのかも知れない。
下手をすれば、この冒アカに入学して、はじめて友達らしい友達が出来た可能性だってある。
もし、そうであったとすれば……今が、フラウの人生で初めて友達の大切さを知ったのかも知れない。
……うぅむ。
飽くまでも憶測でしかないが、そうだと仮定すれば……不憫過ぎる半生を送っていたんだな。




