【2】
「それより、リダ。あなたはどうしてここに?」
シズは不思議そうな顔で小首を傾げて、私に尋ね、そこから数秒後にポンと手を打って見せる。
はっきり言おう。
お前なら、どうしてここに私がいるか分かってる筈だからだ!
「詳しくは『こうして私は無双するみかんVer』をチェックだ、う~!」
いやいや、あんた軽く宣伝してるから!
まぁ、ともかく………だ。
シズは冒険者協会でも国の代表をやってるだけの重鎮だったりもするんだ。
冒険者協会の重役だったシズだけに、私がこの学園で学生をするハメになった経緯などを聞いている筈なのだ。
「でも、剣聖杯にまで出るのは予想外」
「まぁ、私も最初は気乗りしなかったんだよ」
けど、まぁ……色々あったんだ。
我ながら、なんだかんだで大人気ないとは思ってるんだよ、これでも!
しかし、まだ予選ではあるが、この大会を通じて色々な物を見せて貰った。
姫様の成長。
フラウの成長。
パラスの正体と過去。
そこから転じて行くだろう、人間とそれ以外の存在との共存。
これだけで、私は意義のある戦いがあったと心から思う。
「でも、リダがこの大会で本気出したら、他の選手が可哀想。う~」
「いや、流石に本気でやらないから、安心して」
「う~……まぁ、優勝するのは勝手だけど、この大会が後々、リダが戦ってたインチキ大会だったとバレない様にだけはして欲しいう~」
「私が戦ったらインチキなのかい!」
「そりゃ、そうだう~! なんて言っても世界代表のか………」
シズの言葉はそこで止まった。
見れば、そこにはぽへ~っとした顔のルミ姫様がいたからだ。
「えぇ……と? やっぱりリダって凄い人?」
「違う違う違う! 断じてそんな事はないぞ、ルミ! 私はだたの学生だ!」
「う………う~。そう。私はこんな小さい子供みたいなリダを知らない」
……知らない人の名前を言ってるんですが。
元から天然入ってはいる人だが、少し焦っている所もあるのだろう。
「そ、そうですか……そうですよね、あはは~」
半信半疑と言うか、完全に腑に落ちない顔をしつつ、なんとか納得混じりの声を出していたルミ姫様。
ルミからすれば、私がなんらかの有名な存在である方がしっくり来るのかも知れない。
気持ちは分からなくもないし、そこらの話は、追い追いするつもりでもいたのだが、今は隠して置きたい。
なんだかんだで、同じクラスメートと言う関係が一番しっくり来るんだ、ルミ姫様とはな。
「ともかく、内容は理解した。健闘を祈る!」
そこから、シズは『う~!』と大きな声を出して右手でグッジョブしていた。
何がやりたかったのかは知らないけど、取り合えず応援していると言いたいのだろう。
「私も、大会の理事席や解説席等でこの大会の試合を見るつもりだ。リダと……えぇと、名前は?」
「ルミです。ルミ・トールブリッジ=ニイガと申します」
「なるほど、ルミ・トールブリッジ=ニイガ」
自己紹介するルミにシズはやんわりと笑顔で彼女の名前を復唱する。
そこから笑顔が固まった。
ついでに変な汗まで流れてた。
分かる! 分かるよシズ!
「う? うううう? う~?」
そこから、かなり混乱してる感じの台詞を思いきり不自然に叫んでた。
直後、シズは速攻で私の前に来て、変な汗をダラダラ流したまま、耳打ちする。
「彼女、ニイガの姫様う~?」
「ご名答」
「う~~~~っ!」
叫び、顔を真っ青にしてから頭を下げた。
「あ、あのぅ……やめて下さい。そう言うの、あんまり……」
「そ、そそそう言われましても! 魔導大国のお姫様相手に、私ごときが普通の言葉を使うわけには……」
「今の私は、この学園の生徒です。リダも私にとっては普通の友達ですし、ちゃんと友達として接してくれてます」
「リダはアホだから、特別なのです!」
誰がアホだ!
「大丈夫だシズ。ルミは本当にそう言うのが嫌いなんだ。だからむしろ普通の態度の方か良い」
……ニイガ王やその回りの王族はどう思うか知らないがな!
「そ、そうなの?」
「はい! だから、気軽にルミとお呼び下さい」
「う~~~! ニイガ国王に殺されそうだから、せめてルミさんと言うです、う~~っ!」
その後、無駄にう~う~叫びつつ、シズは私達の前から立ち去って行くのだった。
●○◎○●
約一時間後に開会式が始まる。
選手入場と同時に、闘技場は大盛り上がりだ。
やっぱり、この学園祭の華だけあるな。
こう言う程よい熱気は何気に好きだった。
選手入場が終わると、学園長並びに、大会委員会の代表としてシズが軽く話しをする。




