魔導師組合からの招待状【1】
チュンチュン鳴いてる。
……うん。
あれはきっとスズメだ。
スズメじゃなかったのなら、チュンチュンとは鳴かない。
きっと、これが『ホーホケキョ』だったら、新種のスズメが鳴いているのか? と嘯く事が出来たかも知れないが、流石にチュンチュン鳴くウグイスを、私は知らない。
ホーホケキョと鳴くスズメも、私は知らないが。
…………。
いや、そんな事はどうでも良い事だ。
部屋の外でスズメが鳴いていた事に気付き、私はノソノソとベットから這い上がる。
私的には、颯爽とベットから起き上がっているつもりなのだが、隣で寝ているアリンが偶然目を醒まして、私の起き上がる様を見ていた時、
『お? か~たま? ゾンビごっこ? ゾンビごっこしてう?』
小首を傾げながら純朴な笑みを向けられては『だったらアリンもやるお~!』とか言って、やたら芸に細かい物真似芸人染みた勢いで、私が起き上がる真似をしていた。
……その姿は、確かにゾンビっぽかった。
取り敢えず『か~たまはゾンビの真似はしてないからやめなさい』と、涙ながらに注意したが……その後、三日程度は私の真似をして起きる事をやめなかった。
……子供って、時々残酷だよな!
「よし、アリンはまだ寝てるな」
起き上がった私は、アリンがちゃんと寝ているかを確認する事にしている。
これは、ちょっとした日課となってしまった。
何故なら、このタイミングで目を醒ます物なら、決まってゾンビごっこを初めてしまうからだ。
か~たまの心はガラスハートなのだ。
無垢な子供が、一欠片の邪気もなく、楽しそうにゾンビの真似事をして、自分の起き上がるシーンを真似ていると言われたら、それだけで簡単に砕け散ってしまうまでに繊細なハートの持ち主なのだ。
そこで、私は普段よりも十分程度早く起きる事で、自分の起きる姿を物真似名人に見られない努力をする事にした。
起きる姿を見られるのが嫌なのであれば、起きる時にノソノソと起きなければ良いんじゃないの? と、これまた無邪気な笑顔で平然とのたまってくれるお姫様がいたけど……それが出来たら、十分早く起きる努力なんてしないぞ! っと、大声で叫んでやりたい。
昔からの癖だから、中々なおらないんだよ……これが。
……と、そんな事より、だ。
「早い所、準備をしておかないとな」
ベットから起きた私は、アリンを寝かせた状態で本日の支度を始めた。
余談だが、今日から当分の間は学園が休校となる。
特に災害等の事情などで、学園が休校になったと言う訳ではない。
ここカントー帝国には、祝日や休日等が偶然重なった事で、結果的に長期休暇となってしまう時期がある。
帝国節と呼ばれる、二週間程度の長い休みがそれに当たる。
抽象的に表現するのなら、日本で言うゴールデンウィークの様な物だ。
日本からすれば、この世界は全くの異世界になってしまうのだが、こちらの世界にもゴールデンウィークに近い代物があると思ってくれれば、これ幸いだ。
私の場合、前世の記憶と言う物を断片的にしか持ち合わせていないので、ややうろ覚えな部分もあるが……確かゴールデンウィークは概ね一週間程度だったと認識している。
そこを加味するのであれば、約二週間程度の期間がある帝国節の方が、少し長い期間になるのかも知れないな?
話を戻そう。
この様に、帝国節と呼ばれる長い休暇が発生した事で、私やアリンも暫くは学業から一歩離れた場所に身を起き、二週間もの長期休暇にどの様なバカンスを楽しむかで一喜一憂していた。
私とアリンの部屋にやって来たフラウが、泣いて喚いて土下座までして来たのは、そこから間もなくの事だった。
全く以て意味不明な行動をして来たフラウ。
これはどうした事だろう?
よもや、貧乳と言うアイデンティティーだけでは、己のキャラを保持する事が難しいと考えて、新しい芸風を身に付けようとしているのだろうか?
だとしたら、その芸風はやめておいた方が良い。
痛々しくて見ていられないぞ? と、真剣な眼差しで答えたら、今度は人の胸ぐらを掴む勢いで怒り始めた。
……やれやれ。
次から次へと、意味不明な行動を節操なく展開して来るヤツだ。
ともかく埒が空かないので、事の次第をちゃんと聞こうと、紅茶を飲ませて落ち着かせて行く。
十分程度で落ち着いたのか? フラウは普段通りの態度を見せて、私にこう言ったのだ。
『リダ! お願いします! 私の相棒になって下さい!』
……私の頭は、大きな大きなクエスチョンマークで埋まってしまった。




