リダさん親子の平凡な一日【23】
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授業が終わり日が暮れる。
今日も色々あったな。
それでも、中々に楽しい……充実した一日だったと思う。
「か~たま、お手て繋ぐお~?」
授業が終わり、校舎の外に出てからアリンが右手をプラプラしながら言って来た。
私はキュッとアリンの右手を握る。
すると、アリンの顔にも笑みが生まれ、そのまま顔から音符を出す様に鼻歌なんかを歌い始めた。
今日の予定は、一旦寮に帰ってから商店街に向かう予定だった。
アリンのボンボンを買いに、雑貨屋へと買いに行く事も去る事ながら、明日のお弁当パーティー用の食材なんかも買いに行く予定だ。
今日も今日で、地味に忙しい感じではあるんだけど、これはこれで楽しい忙しさかも知れないな。
「……うん?」
寮の自室へと戻って来ると、そこには魔導系を担当している先生が……ああああっ!
そうだ! そう言えば、今日は先生に魔導式を教える事になってたっ!
「……やば……どうしよう……」
私は額からタラリと冷や汗を流しつつ、目線をあさっての方角を見つめながら自室へと向かう。
「お? か~たま。先生がいるお~」
「そ、そうな……はは」
アリンも私達の部屋に先生がいた事に気付いて、私へと声を掛けて来た。
……と言う所で、先生も私達に気付き、愛想の良い笑みを作りながらも手を振って来た。
あはは……ど~しよ。
一応、買い物が終わってからであれば、先生に魔導式の説明も可能ではあるんだけど……。
「えぇと、先生。こんにちわ」
「はい、こんにちわ。今日はよろしくお願いしますね」
一応の挨拶もそこそこに、軽く頭を下げた私へと先生も挨拶を返して来た。
心成しか礼儀正しいのは、これから教えて貰う立場である事を、自分なりに考えての事なのかも知れない。
うぅ……何か、凄く言いにくいなぁ……。
そんな、私が思わず口ごもっていた時だ。
「あ、リダ? まだ買い物に行ってなかったんだ……じゃ、私も一緒に行っても良い?」
思わぬ角度からルミの声が転がって来た。
まぁ、部屋が隣だからな。
ついでに言うと、既にルゥは私達へと軽く会釈をしてから、自室である隣の部屋へと入っていた。
「え? 買い物?」
ルミの言葉を耳にして、先生はちょっとキョトンとした顔になっていた。
先生からするのなら、今日の予定は私と一緒にお勉強会だったろうからなぁ……。
「……そのぉ……すいません! 実は、明日……中庭でみんなと一緒に手作りお弁当を持ち会って食べる話になってしまいまして……」
仕方ないので、私は今日の昼間に起こった出来事を素直に話して見せる。
「あら……そうだったのね。ふふ……良い青春してますね。学園生活をエンジョイしている模様で、良かったです」
すると、先生は微笑みを絶やす事なく私へと答えた。
……うむ。
どうやら、結構な理解力のある先生だった模様だ。
ここの先生は、どっちかと言うと自己中心的な連中ばっかだったから、ちょっと意外であったかも知れない。
「それなら、私も御一緒させて頂いてもよろしいですか? 実は、私も買い出しをしたいな……って思ってたのです」
先生はにこやかな笑みを作りながら、私へと答えた。
正直、凄まじく断りにくい台詞でもあった。
ついでに言うと、断る理由も見当たらない。
結果、私達は先生をゲストに迎える形での買い物になって行くのだった。
余談だが、そこからフラウやユニクス辺りとも合流し、そこはかとなく騒がしい買い物になって行くのだが、余談程度にして置こうか。
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そこから買い物を終えて、軽く晩御飯の準備となる。
部屋にキッチンがあると、こう言う時は便利だな。
みんなでワイワイやりながらの食事となった。
そんな中、先生がニッコリと笑みを作ってから私へと答える。
「リダさんは、皆さんから、とっても慕われているのですね。何だか教師として少し嫉妬してしまいたくなる位、羨ましいわ」
「あはは……実際は、そこまで人気がある訳ではないんですがね」
先生の言葉に、私は少しだけ謙遜混じりに答えた。
実際問題、謙遜と表現出来るレベルではないんだがな。
クラスでは、未だに私の事を大魔王と勘違いしている輩がかなりいるし……。
そんな、根暗な思考が私の胸中を通り過ぎている中、
「ふぁっ!? ユニクスっ! それはアリンのコロッケだおぅっっ!」
テーブルの上にある大きな皿に乗せてあったコロッケをヒョイと取っては、パクッと食べるユニクスを前に、アリンがガーンッ! って顔になって騒いでいた。
どうやら、最後のコロッケだったらしい。




