リダさん親子の平凡な一日【19】
『明日のお昼に、ここの学校にある中庭でお弁当パーティーやるから、その時にまた会おうだお~♪』
『明日の昼だな? 期待して待ってるぞ? ウマイのを頼むからなっ!』
精霊は、かなりの期待を込めてアリンに言っていた。
……軽くプレッシャーなのですが?
私は名コックと言う訳ではないから、そこまで期待されると困るんだがなぁ……。
そんな事を苦笑混じりに両腕を組んで唸り声を上げて行く中、中堅戦が始まって行く。
今度はやけに大柄な男がやって来た。
見た感じだと、お前は本当にティーンエイジャーなのかと聞きたくなる。
まぁ……思えば、この学園は入学に年齢制限がなかったから、ある意味で二十代の新入生がいても、なんらおかしな事ではなかったんだが。
そして、だからこそ、三歳児の二年生がいても大丈夫と言うか、ギリギリ罷り通っている事になる。
ここに関しては、私もツッコミを受けたら苦しい言い訳しか返す事が出来ないのが実情だが。
何にせよ、次の対戦相手はかなりの巨漢だった。
身の丈二メートルを優に越えていた。
対するアリンは、身の丈95センチの三歳児。
文字通り、片手で捻り潰されてしまい兼ねないまでの体格差が存在していた。
「おぉぉぉ! でっかい~っ!」
見事に見上げる感じだったアリンは驚き半分に対戦相手を見る。
そして、答えた。
「でも、魔力はちっちゃいんだお~」
「なんだとっ!」
相手がカチンと来る様な台詞を。
……三歳児は、素直に考えている事を口にしてしまう。
純朴が故の言葉ではあるんだが……何て言うか、子供は残酷なのだ。
そして、現実はもっと残酷だったと言わざる得ないだろう。
「で、では、始めて下さい」
アリンの放った、純朴な子供の台詞にすっかり触発されてしまった対戦相手が、怒り浸透の状態で剣呑なオーラを迸らせてたせいか……妙に萎縮した審判の生徒がいる中、次の戦いが開始された。
「お~」
ドンッッッ!
そして終わった。
……うむ。
これだけでは、何が起こったか分からないな。
まず、現状で現在起こった事を先に述べて置こう。
対戦相手は、始めと同時に吹き飛んで白線のラインを越えていた。
よって、リングアウト負けとなる。
つまり、バトルはこの時点でアリンの勝利だ。
続いて、どうしてそんな事になったのか? を軽く説明して置こう。
始めの号令が発せられ、アリンは右手に空気球魔法を発動させる。
そこから、右手の掌を素早く対戦相手の土手っ腹に当てて見せた。
その瞬間、右手に発動していた空気球魔法が対戦相手を大きく吹き飛ばした。
魔法的に言うのなら、空気を操る魔法の初歩。
もう、初歩中の初歩と言っても良い。
しかし、そこに膨大な魔力を込めて放てば、その威力もかなりの代物となり……実際に二メートルを越える巨漢が一瞬にして吹き飛んでいた。
「こ、こんなのは無効だっ!」
しばらくすると、白線の向こう側にいた対戦相手が不服を申し立てて来た。
三歳児相手に、ルール上とは言え一瞬で負けてしまった事が恥ずかしかったのだろう。
……けれど、私の視点からするのなら、負けた癖にイチャモンを付ける事の方が、もっと恥ずかしい行為だと思うんだけどなぁ……?
「お? そっちの線まで行ったら、負けじゃないお?」
他方、アリンはキョトンとした顔になって首を斜めに傾げていた。
うんうん、そうだぞアリン。
お前は、何も間違っていない。
それに、アリンはちゃんと私の言い付けを守っていた。
相手の力量に合わせて戦いなさいと。
弱い者イジメをする人間が、一番悪い人間だと教えていた。
最初の先鋒戦や、精霊術を扱う相手に対してもそうなのだが、アリンはかなり能力をセーブしているのは、私の教えに忠実だからこその行為でもある。
うんうん!
アリンは本当に良い子だよ!
この調子で、大きくなっても立派な良い子に育って欲しい所だ。
「試合ならそうかも知れないが! 実践とかなら、こんなんで勝敗が決まるわけないだろう! こんなふざけた理由で俺が負けとか……納得出来るかっ!」
他方の巨漢野郎は、スペシャル大人気ない屁理屈を抜かして来た。
……ちゃんとルールのある元でやってるんだから、これは試合と表現しても問題ないと思うんだけどな?
それに、だ?
「実践で……と抜かすか?」
ムッとなった私は、そこで思わず口を挟んでしまった。
正直、子供の喧嘩に親が口を挟むのはどうかと思う部分もあるんだが……今の会話を聞く限りだと、ウチの娘が100%悪くない。
当然、大義がこっちにあるのなら、私も色々と物を申したい訳だ。
まず、言いたいのは……だな?
「お前な? これが試合だったからこそ、生きていられたんだぞ?」
私は真剣な顔をして巨漢野郎に言い放った。




