【8】
「お前が来る前に、ここには何人かの冒険者が来ていた」
……分かるよ。
この学園に送ったのは、他でもない私だからな。
「その冒険者は、俺より全然強いヤツだった……全く歯が立たず、俺は死を覚悟した」
答え、顔を私に向けた。
「だが、ヤツは俺を殺す所か、一緒に協力しようと言い出した。仲間として共存出来ると本気で言ったんだ。その上で人間の傲慢さを詫び、今後は人と人ではない存在との共存策を一緒に模索して行こうと、本気で言って来た」
真剣な瞳を私に向けたまま、パラスは口を動かし続ける。
今までが今までなせいか、すごく饒舌に見えた。
「最初は俺も半信半疑だった。どうせ口からでまかせだ。言うだけなら誰だって出来る。そう思っていた。けど………口だけではなかったんだ」
………だろうな。
なんとなくわかるよ。
それ、きっと私の旧パーティメンバーだと思うから。
「そいつは、俺を庇い……死んだ。最後に人との共存が出来なくてごめんなさいと、何回も何回も俺に謝って……自分の事なんか二の次で、死んだんだ!」
きっと、無意識だったろうが、パラスの瞳に涙が浮かんでいた。
「……今まで憎しみすら抱いていたと言うのに。俺は人間と言う存在がわからなくなった」
「それでいいと思うよ」
私は言った。
実際……さ?
人間と一言で表現しても、色々な性格の人間がいる。
良いヤツもいれば悪いやつもいる。
全ての人間が、他の存在を排他したいと考えてるわけじゃない……そう言う事だろう。
「共存しようとしていた冒険者の名前……なんて言うんだ?」
「ぺぺ・ローネだ」
あぁ………やっぱり。
とっても聞きなれた名前だよ、それは。
「あいつはさ。喧嘩っ早いけど優しくて面倒味があって。自分勝手な癖に他人の心配ばっかりしてて。本当……良いヤツだったよ」
「知ってるのか?」
「ああ。昔一緒に冒険してた」
「……そうか」
力無く呟いた後、再び真剣な顔になって私に口を開いた。
「そこからお前が来て、予見の通りになったと気付いた。ああ、とうとうお前と言う最後の存在が、ここに来てしまったんだな、とな」
そして、あんたは私を狙う筈だった。
しかし、ペペの一件で……完全に人間を憎めなくなっていたパラスは、そのまま生徒のフリをしていたわけか。
「俺はお前を倒すかで、心が揺れた……しかし、お前を倒そうと考える連中は山程いた。同時にそれは裏切った俺を粛清する相手が山程いると言う意味にも繋がる。ペペに託された共存への道を成し遂げる為にも、俺は生き延びて学園を出たいと考えた」
そこで、今に至る……と。
「だが、その考えは笑ってしまう位に甘い物だった。お前は俺なんかじゃ全く通用しない相手だったんだ」
ふぅ………と、息を付き、パラスは微笑んだ。
「だから、頼む。言えた義理ではないが、人との共存をお前が成し遂げてはくれないだろうか?」
「ああ、もちろんだ」
「本当か!」
「当然だろう? 私の正体がわかってるのなら……」
そこまで言った私は、虚空に向かって素早く超炎熱爆破魔法を放った。
ドォォォォンッ!
面倒なのがいたな。
まぁ、なんだったのかは知らないけどさ。
向こうがなんらかの攻撃をしようとする直前に私が爆発を放った。
直撃なら、それなりのダメージか消滅だろう。
どっちなのか分からないが、超炎熱爆発魔法の一撃によって消え去った。
「……何をした?」
「大した事じゃない、お前を殺そうとした虫がいた。それだけだ」
「………」
「そうしょげるな。私を誰だと思ってるんだい? 私は会長だぞ?」
私は快活に笑う。
そうだ。
私は会長だ。
人間が生きる道を真剣に考えないと行けない。
まぁ、モンスターを倒す立場の人間が、モンスターとの共存を考えるってのは、いささか滑稽ではある。
けれど、思う。
人間は決して悪ではない。
悪い人間もいるし悪党ものさばっている世の中かも知れないが、そんなのばかりが人間ではない。
それだけは、確実なんだ。
「これからの世界は、きっと変わるさ。私が変えて見せる」
「……ありがとう」
パラスは心からの笑みを私に向け、右手を出して来た。
私も右手を出す。
そして、がっちりと握手して見せたのだった。
以下、次回!
PS・三位決定戦は、なんとルミがフラウを打ち負かした!
ルミ姫様の成長はたくましいぞ!




