リダさん親子の平凡な一日【10】
リューア君の尊い犠牲は胸にしまう事にして。
「この、ビリビリィィィッ! って、どうやって無くすお?」
未だ泣きべその状態になっていたアリンは、怖々とした顔になって私の胸元から石を凝視した。
もう触ろうとはしなかった。
私なりには簡単ではある。
ハッキリ言うのなら、子供騙しのオモチャみたいなトラップだ。
トラップの解除方法に正式な答えなんてないだろうが、模範解答と言う物がもしあるのなら、
「石の魔力を感じてごらん? そしたら魔力に魔導式があるかどうか、探してみるんだ」
「魔導式……?」
軽い口調で答えた私の言葉を耳にし、アリンは『ふみゅぅ……』と悩む。
あはは! 可愛いなぁっ!
思わずギュッと抱き締めたい衝動に駆られた私だが、アリンは真剣に悩んでいたので、敢えて何もせずにアリンを見据えていた。
そこから一分程度してから、アリンはキラキラしたおめめを作って言う。
「そうか……魔導式だお……魔導式になってるお~っ! ヤバイお、か~たま! 本当、か~たま何でも知ってるおおおおっっ!」
そうだろう、そうだろう!
尊敬の念を持ってキラキラおめめを私に向けるアリンを前に、私はついついドヤ顔になってしまった。
ずばり言ってしまえば、現役の冒険者……それも魔導主体の人間であるのなら、この程度の事は経験から知っていて当然のレベルでもあるし……そこの会長でもある私が知らない筈もない出来事ではあるんだが、娘から羨望の眼差しを受けると、無条件で有頂天になってしまうお調子者の私がいた。
いや……だって……アリンが可愛過ぎて……ねぇ。
石に掛けられていた魔法を分析したアリンは、そこから石に封入されているのだろう魔法を無効化させる。
バシュゥゥゥン……
おお、お見事!
仕組みは、私の言葉で理解はしていただろうが、それであっても既に発動を待つだけの魔導式を解除させるとなれば、相応のコツが要る。
つまり、仕組みが分かっているからと言って、簡単にやれると言う訳ではないのだ。
所が、アッサリと解除してしまうアリンがいた。
ここには、か~たまもビックリだおっ!
……と、いけない、いけない。
うっかりアリンの言葉が移ってしまった。
「凄いなぁ、アリン。もう解除する事が出来たんだな?」
「お? 魔導式を発動から終了に式を変換しただけだお? 難しくないお?」
ニッコリ笑って誉めた私に、アリンはとっても不思議そうな顔になって返答した。
実に簡単そうに言っているが、言うほど簡単と言う訳じゃない。
要は、魔導式の中に『魔法を発動しろ!』と言う命令文が存在するんだけど、ここを強引に『魔法を終了しろ!』と言う命令文に変換させる。
これによって、これまでは発動していた魔法が、逆に終了してしまう。
結果、封入していた魔法は作動しない。
むしろトラップ条件になると逆に沈黙してしまう訳だ。
これは、トラップに仕掛けられた魔法が魔導式によって構築された場合にのみ適用するトラップではあるんだが、かなりポピュラーな魔導トラップでもある為、この方法を知っているだけでもかなりのトラップを回避する事が可能になるのだ。
……ただ、アリンはまるでスイッチをポンと切り替えたかの様な勢いで、スペシャル容易にやってのけてたりするのだが……当然ながら、実際はそうではない。
今回は実習と言う事もあってか? トラップ用に封入されていた魔導式が実にシンプルで分かりやすい内容であった為、それこそ迷う必要もなく簡単にトラップを解除する事が出来た模様だが、実際のトラップはもっと複雑だ。
例えば、魔導式の中にダミーの魔導式が混在していたりする。
つまり、あたかも命令している式に見える部分が、実はフェイクの魔導式で、そこの魔導式を変更しても一切トラップは解除されない。
当然……それで解除したと勘違いした場合は……大惨事となってしまう。
ダミーも巧妙化している事が多く……どれが本物で、どれが偽物なのか……全く見分けが付かない代物が大多数でもある。
これらを加味するのであれば、本物はもっと複雑で巧妙……そして難解な代物でもある。
当然、この程度のチャチな子供騙しのオモチャにも似た低レベルの魔導トラップなど、解除出来ない方がおかしいと考えるのが、一人前の冒険者と言えるだろう。
……とは言え。
「うわぎゃぁぁぁぁっ!」
「きゃぁぁぁぁっ!」
「ぎょぇぇぇぇっ!」
ここには、まだまだ一人前には程遠い学生達の集まりでもあり、幾人かの可哀想な生徒達が絶叫して倒れて行くのが目に映った。
他方、フラウ・ルミ・ルゥの三人は、問題なくトラップを解除している。
そりゃ……な。
私的に言うのなら、この程度の基礎的なトラップ解除程度は、簡単にやってくれるだろうと思っていた。
むしろ、普通に解除出来なかったらどうしよう……とか、思っていた位だ。
……普通に解除してくれて良かった。




