リダさん親子の平凡な一日【6】
「うぅ~んと……基礎覚えたら、じょーいしきを教えてくれう?」
「ああ、もちろんだ。だから、まずは基礎を覚え様な?」
「うん! アリン、頑張る~♪」
アリンはニパッと笑った。
他方の先生は、ちょっとガッカリした顔で……。
「そ……そうですね……いきなり高位式とか無理ですよね……あはは……その、けれど今日はリダさんの部屋には行きます。お茶菓子程度は持参して来ますね?」
ややショック気味の表情を作って、声を漏らしていた。
それでも、ちゃっかり今日のノートに書かれていた式を私から学びたいらしい。
いや……まぁ、良いけどさ……そのくらい。
こうして、基礎魔導を教える先生が、今日の夕方にも私達の部屋を訪れる事になるのだが、余談程度にして置こう。
●○◎○●
二時間目は体育だった。
これは普通に体育だ。
校舎前にあるグラウンドに体操服で集合する。
ただ、この学園における体育の授業と言うのは、他の学校とは色々と違う。
まず、体育の授業はランダムだ。
簡素に言うと、正式な時間割りの中に入っていない。
こんな風に述べると、若干の誤解を招き兼ねないのだが……この学園に入学を希望している者の大多数が体力自慢が多い。
つまり『わざわざ学ぶまでもなく体力がある』連中ばかりが多いのだ。
ここらの関係もあるのか? 他の学校とスポーツの大会で争う事がない。
正確に言うと出来ないのだ。
まぁ……年齢制限と言うか……成人の生徒だって普通にいると言うおかしな学園だけに、そこらで色々と面倒な部分もあるのかも知れないが、仮に年齢的な部分をクリアしていたとしても、大会に参加出来ない学園でもあった。
逆に言うのなら、それだけ身体能力に特化し過ぎた連中の集まりでもある。
特に剣士志望の面々は、体力だけでこの学園に入った様な連中ばかりなので、体育と言う授業自体も指して必要ではなかった。
逆に魔導志望の面々辺りは、体力の少ない連中が多く……ここらの面々に基礎体力を付ける目的で体育と言う授業をやっている側面もある。
あるんだけど、だ?
「か~たま! あっちでみんながサッカーやってるお~? か~たまもやろうよ~?」
こんな事を言っているアリンの言葉通り、体育の自由度はかなり高い。
ぶっちゃければ、体育は完全な自習だ。
各々が好きに身体を動かせって言うレベルだ。
それだけに、ルミやルゥの様な面々は、校庭の端っ子辺りで日向ぼっこしながら、上品に会話を楽しんでいたりもする。
もはや……体育の授業じゃないレベルだ。
まぁ、私も他人の事が言えた義理ではないんだけどな?
この体育って時間は、授業が予定以上に進んでしまった時に発生する、言わば時間調整の為のリラックスタイムでもある為、各々が自分にとって一番ベストなリラックス状態を作るのが普通だった。
よって、私も校庭の近くにあるベンチに座って、周囲の状況を眺めているだけだった。
そこにアリンがやって来て、さっきまで一緒にやっていた男女混合のサッカーに、私を連れて行こうとしていた訳で……。
「ああ、悪いなアリン。私はそう言う球技と言うかスポーツとか、やった事がなくてな」
一応、簡素なルール程度は知っているけど……だからって、自分がやりたいかって言えば……まぁ、答えは言うまでもなくお断りだ。
「えぇぇ……アリン、か~たまと一緒にサッカーしたかったよぅ……」
軽く手を横に振り、誘いを断った私を見たアリンは不満そうに口を尖らせて来た。
……う。
その顔に、私は弱い。
身体をフルフルさせて、目からじんわりと涙を滲ませる姿を見ると、無条件で私の心に罪悪感が生まれてしまう。
……くぅ……仕方ないな。
「分かった、分かった。少しだけだぞ?」
泣く子と地頭には敵わない。
思った私は、少し折れる形で頷いて見せると、
「わ~い! んじゃ、行こう行こうっ!」
瞬時に笑顔を作って、私の袖を引っ張って来た。
もしかして、嘘泣きだったんじゃ……?
余りの変わり身に、私の胸中に懐疑心が芽生える中、私は袖を引っ張られる形で校庭の方へと向かった。
グラウンドの中央にやって来ると、
「うげっ! 本当に連れて来たしっ!?」
真っ青な顔して驚きの声を上げるフラウなんかがいた。
……何でそんな顔をするかね?
「フラウちゃん、凄いんだお~。さっきから、アリン……全然ボールが取れないし、フラウちゃんに全部取られてしまうお~」
アリンは超が付く程の真剣さで私に答えた。
「……ほ~」
私は判眼になる。
つまり、良い歳して三歳児と本気でサッカーしている訳かよ……。




