【7】
「………お前、まさか」
予想はなんとなくだけどしていた。
学生離れしていた格闘力……この美少女を前にしても顔色一つ変えない、その精神力!
どちらにせよ、人間ではないのなら納得だ。
その強さは人間離れしているし、私の可愛さは人間にしか分からないだろうからな!
まぁ、後者は置いといても、だ?
「巨人族……と言えば、お前には通じるかな?」
パラスは独白混じりに言っていた。
「納得したよ………」
パラス・ティタン……なるほど。
お前の名前はそのままだったのか。
私が知ってるのは神話の世界の話だ。
はっきり言っておとぎ話の世界なんだが……まぁ、この世界には神も悪魔も邪神も魔物もいるんだから、巨人だっているだろう。
しかし、そうなると解せない所がある。
「お前はどうして、魔族の仲間になっているんだ?」
巨人族は言うなれば神々の系列。
魔族とは大きく異なる存在だった。
「それは違うな。逆に考えろ。お前はどうして人間を悪としない? 他の種族・魔物・悪魔・魔族……そして、我々巨人を、お前達人間はどう考えてる?」
「………」
私は無言になった。
言いたい事はわかった。
簡素に言えば、人間はこの世界で繁栄し過ぎたんだ。
大昔、この世界には神や悪魔以外であれば、精霊とか魔物とか、そう言うのしかいなかった。
人間と言う存在は、言ってみれば新参者だった。
しかし、今の世界は人間が山の様にいて、世界のあらゆる場所に国や街を作り、勝手に統治してしまっている。
前々からいた存在からすれば、世界征服された様な物だ。
人間は人間を守るのを正義とし、その正義の名の元にたくさんのモンスターを倒してきた。
逆の視点からすれば、後から生まれた人間と言う存在が、集団で自分達を襲って来た……と、こうなる。
つまるに、魔物達が人間を淘汰するのは、魔物視点からすれば単なる奪還に過ぎないわけだ。
「人間と言う存在は、人間を中心としてしか物事を考えない。故に、この世界の大多数の土地を人間が支配していても、それが当然だと思っている。それが愚かだと思わないのか?」
「……そうか……」
そこには、色々なドラマがあったとは思う。
言って見れば、人間対他の存在の壮絶な歴史なのだ。
その末に、人間が地上を制覇し、今の世の中に繋がっているのだろう。
そこから時が過ぎ、なんらかの異変が起き、人間を抜かす他の存在だけが、強くなっている。
これが、現在と言っても良い。
そして、私を狙っている存在は魔族『だけ』ではないと言う事も。
しかし、これで納得の行く話もある。
例えば、パラスの守護霊が何故にここまで白く綺麗であったのか。
簡素に言えば、魔族ではなかったからだ。
巨人族の一人であったが故の事だ。
「人間は、少し調子に乗り過ぎた。世界をほぼ掌握してしまったんだ。故に、あのお方が動いてしまった」
「……あのお方?」
誰だよ、そいつ?
「それは言えない。俺も命は惜しいからな」
言うと死ぬっぽいな。
恐らく嘘ではないのだろう。
実際、自白するのを防止する為に、話をした瞬間に即死してしまう呪いがある位だ。
パラスにも、そう言った類いの呪いが掛けられていても、なんらおかしくはない。
「世界のバランスを保つ為に、人間以外の存在は強くあるべきと判断した存在がいたんだ。その結果が、お前の考えている不安の答えだ」
「……モンスターが強くなっている、一連の謎か」
………。
全く分からない。
私が分かったのは、黒幕がちゃんといると言う事だけ。
他は、全く見当も付かない。
「どの道、あの方が姿を現す事は皆無に等しい。この学園も自分の駒となる存在を送り、高みの見物だ。人間では最強クラスと言っても、所詮は人間と考えたのだろうよ」
「余裕だな……まぁ、良い。そいつからすれば、確かに私など取るに足らない存在なのかも知れないしな」
実際、そいつはヤバ過ぎる。
どう言う理屈なのか知らないが、世界の均衡を脅かすバランスブレーカー的な事を平気でやってるわけだからな。
文字通り、そいつ一人の手のひらの上で、今の世界は成り立っているよ。
遊ばれてる気分だ………ったく、胸くそ悪い!
やる気になれば、魔物の強さをもっと強くする事だって出来そうだ。
しかし、それを敢えてやらない。
まるで、今の世界を見て楽しんでいるかの様に。
「俺は、人間と言う存在が嫌いだった。理由は言うまでもないだろう?」
答え、パラスは目を下に落とした。
「しかし、その考えが正解であるのか、今の俺には分からなくなっていた」
項垂れる




