リダさん親子の平凡な一日【2】
食事を食べ終えた私達は、再び部屋に戻ってから最後の支度をする。
アリンは、制服に着替え……私は着替えにプラスで顔に若干のお手入れを加える。
まぁ……言う程、そこまでやる訳ではないんだけどな?
お絵描きをするレベルまでの時間はないし、そもそも若返っていると言うか……ハイティーンな現状だと、そこまで細かい事をしなくても大丈夫だったりもする。
……でも、目元のラインとかは気になるかな。
ああ、睫毛とかね?
ああ、頬も少しは細めに見せたいしぃ……。
もちろん、若干だぞっ!?
……そ、そう! 若干ではあるが、鏡とお友だちになる時間でもある。
わ、私だって女なんだから、多少はメイクしたい訳だ……そうしといてくれっ!
「か~たま! おっそい! そんなにお化粧したって変わんないよ~?」
違う、違うぞアリンッッッ!
アリンはな? ほら、まだ子供だし? 人生経験も浅いからまだ分からないかも知れないけど……でも、けど、し・か・し・だっ!?
「ちゃんと、肌ケアしないと後が残念な事になるし、目をチョイチョイと変えるだけで、印象もメチャクチャ違うんだ! ここはか~たまも譲れないのだっ!」
「えう? か~たまは、そんな事しなくても十分か~いいよ?」
……はぅっ!
小首を傾げて言うアリンに、私の胸がときめいてしまう!
心からの純粋な台詞だけに、私としても素直に額面通りに受け取るぞ!
そ、そうだよ……分かってるな、流石は我が娘っ!
良い子で本当に良かったよっ!
……でも、アイラインはしっかりとやって置くけどなっ!
只でさえ私は、釣り目ガチだから……目が怖いとか良く言われ……い、いや! 言われてないし!
……言われてはいないけど、ここだけはやっぱり譲れないのさっっ!
こんな感じで、ナチュラルに武装した私は、今日も学園へと向かって行く。
……そう、メイクとは武装なのだ!
顔に対する美意識は、戦いなのだっ!
途中、ルミやルゥと合流し、二年一組の教室へと入って行く。
……ふむ。
「そう言えば、ルミ? お前、肌が凄く綺麗だけど、何か使ってるのか?」
登校途中、私なりに感じた疑問をそれとなくルミへとぶつけて見る。
「え? なんも使ってないよ? 強いて言えば、朝起きたら顔を洗ってる」
……………………。
私の思考が真っ白になった。
う、うむ……。
やっぱりお姫様は違うな……違い過ぎて、瞳から熱い何かが込み上げて来るのが分かるよっっ!
くそぉ……。
これも、庶民と王族の差かっ!
「世の中ってのは、やっぱり生まれた時点で格差と言う物は発生してしまう物なのか……」
私は思わず項垂れてしまった。
日頃から様々なケアや対策を心掛け、惜しまぬ努力を涙ぐましく注ぎ込む庶民とは違い……あたかも天から与えられた特殊スキルを生まれながらにして与えられているかの様な、肌対策も要らない天然美白を前に……あれこれ色々やっていても、ソバカスが呼ばれもせずに召喚される私の顔面とそっくりそのまま交換してやりたいと思った事は言うまでもない。
「? 良く分からないけど、リダも全然普通じゃない? 男子の間からも受けは良い方だし」
「……それは、どんな皮肉ですかねぇ」
割りと本気で言ってたルミに、私の眉が捩れた。
正直、お姫様にこんな事を言われても、単なる皮肉にしか聞こえない。
あるいは、天高く聳える塔の頂上付近で、文字通りの上から目線で言っている様にしか見えない。
どっちにせよ、自分が不憫に感じてしまう内容だ。
「実際、リダさんはクラスの男子からそこまで不人気と言う訳ではないですよ? 見た目的な物と言うか……可愛さとか美人的な所では存外、好感的な人も多いです。ただ怖いから誰も声を掛けて来ないだけで」
最後だけ余計だと思うのは、私だけであろうか?
自分なりに真実を言っている感覚で口を開いていたのはルゥだった。
表情を見る限り、冗談を言う訳ではなくルゥなりに感じた客観的意見なのかも知れない。
しかし、そこを加味するのであれば、だ?
「私が怖いってのが、不思議で仕方ないんだよなぁ……」
頑張って、釣り目ガチなアイラインもセットしてると言うのに。
「まぁ、仕方ないよ? リダだし」
それで納得するルミの感覚に、私は物申したい気持ちで一杯なのだが?
「そうだね……そこが一番のネックだと思う」
挙げ句、その理由で簡単に納得してしまえるルゥの感覚にも、小一時間ばかり物申したい気持ちで一杯過ぎるんだがっ!?
「どうして、私である事が、怖い存在の代名詞になってるんだよぉっ!」
「リダだから」
ちょっと泣きそうな顔になって切実に訴えた私に、ルミはニコニコ笑顔でキッパリと、答えにならない答えを口にしていた。
これ……泣いても良いよね?




