事件の終わり【14】
その結果、半ば強引に私のクラスへと編入する形を取ったのだ。
この話を聞いた時、流石の私も非常識極まるとして開いた口が塞がらなかった。
ついでに言うのなら、余りにも非常識過ぎる内容であるが故に、冗談で言っているんだろうと、高を括っていた。
所がこれが、冗談などではなかったのだ!
バアルは、周囲の職員はおろか、世界冒険者協会の本部連中にまで嘆願書を作成し……挙げ句、ポンテン代表理事から認定を受けてしまうと言う、おかしな現象が起こってしまうから……さぁ、大変!
一応、トウキ帝国には飛び級制は存在し……各言うルゥ等がその良い一例だったりもする。
公表年齢十三才なのだが、この学園の二学年に在籍している。
一応、高等部相当に当たる学園なので、通常であるのであれば初等部や中等部を卒業した者にしか、基本的には入学試験を受ける許可が降りない。
当然、編入についてもそうだ。
所が、これが必ずではないのだ。
さっきも述べた通り、この国には飛び級制が存在する為、能力の高い人材はより高度な学問をより若い年齢で受ける事が可能になっている。
簡素に言うのなら、その能力に会わせた学習カリキュラムを個人で形成する事が、ある程度まで自由にする事が出来ると言う訳だ。
このシステム自体は特に悪いとは思わないし、レベルの高い存在がより高度な実力を得る為のステップとなるのなら、さもありなんと言わざる得ないシステムでもある……あるんだけど?
どんな物にだって限度と言う物がある訳で……。
幾ら飛び級制が認められている国だからと言って、高等部に値する学校の……更に一学年飛び越えた学習を、三歳児がいきなりやり始めるってのはどうなのかって思う……。
それに、すっ飛ばした基本的な勉強は、何処で誰が教えると言うのだろう?
別に、学校で教える事は、勉強だけではないと思うんだ。
体育的な物は勿論、社会の仕組みと言うか……人間世界での生き方と言うかグループ作り……転じて人間関係のイロハを学ぶのは、何だかんだで最初は学校なんじゃないのだろうか?
道徳面に関してもそうだ。
ここは、親から学ぶ事も幾分かは存在しているかも知れないが、やっぱりこう言うのは周囲にいる色々な人物から学び、経験して行くの事の積み重ねで生まれる物だと思うんだけどなぁ……。
この他にも、色々と言ってやりたい事が山の様に存在していたのだが……私が気付いた時には、もうアリン専用の制服まで準備されていた。
……ここまで周到に……かつ、トントン拍子に進めて来るとは思わなかった。
アリンもアリンで、私と一緒に学校へと通う事にそこまでの不平を漏らす事はなく……むしろ率先して学舎へと通う始末。
この数日で、随分と理知的な子になってしまった。
……まぁ、相変わらず舌足らずな部分は変わっていないのだが。
ついでに言うと、甘え坊で感情的な所等々は、完全無欠の三歳児ではあるんだけどさ?
「か~たま! ほら、もうルミちゃんとルゥちゃん来てるよ!? だらだらしてると、またほ~むる~むの時間に、先生から嫌味言われるお~?」
ここ数日で、随分とまぁ……学園に順応してしまった。
しかも、周囲の人気も抜群と来ている。
今じゃ、クラスで地味に浮いている私よりもクラスの皆に愛されているんじゃないかな……と思う。
「はいはい……今行くから、一分以内には行くから」
「ぶぅ~! 一分は遅い~っ! あと十秒! じゅ~・きゅ~・はち~」
えぇぇ……。
アリンは強引に十秒以内を宣告した挙げ句、カウントダウンまでし始めた!
全く、せわしいなぁ……もうっ!
私は、わたわたとカバンを手にもって、
「じゃ、行って来る!」
机に向かって、そう言いながらパタパタと外へと出て行った。
私が声を掛けた先にある物。
それは、水晶が飾ってあった所だ。
ただ、今は水晶が弾けてしまった為、別の物が飾られてある。
代わりに飾ってある物……それはアインの写真だった。
バアルに頼んだ所、中央本部にアインの名簿があり……そこにヤツの写真が保存されていたそうだ。
そのコピーに当たる代物を一枚貰った私は、写真立てに入れて飾る事にしたのだ。
……アイン……。
……本当は生きていて欲しかった。
生きて……アリンを父親として抱き締めて欲しかった。
そう思うと、今でも目頭が熱くなり、胸が締め付けられる……。
だから、せめて…………そう、せめて。
その写真立ての中からでも良いから、アリンを見守って欲しい……そう、私は願ったのだ。




