事件の終わり【13】
「リダさんが、それで良いと言うのなら……私はそれ以上の事は言わないけど……学生してて娘を育てるって大変だと思う」
程なくして、ルゥが極めて現実的な台詞を口にして来た。
……うぐ。
ここに関しては、私もちょっとだけ悩む。
一応、バアルに色々と相談して、アリンと一緒に教室で子育てと授業を両立させたいとは思ってるんだが……。
「やっぱり、保育所とかに預けた方が良いかな?」
私は真剣な顔になって言うと、
「ほら、リダだし? 学園でも良いんじゃない?」
どう言う理屈ですかねぇ……フラウさんよ?
答えたフラウは、かなーり適当だった。
「私の娘は、それなりの年齢だから学園でも構わないけど……う~ん……やっぱり、保育所とかに相談するのは良いかも知れないね」
他方のルミは、結構真面目に悩んでいた。
ちょっと違うかも知れないけど、ママ友が出来たみたいで嬉しくなった!
そんな時だった。
「私は断じて認めませんっ!」
フリーズ状態だったユニクスの思考が現実世界へと戻って来た。
随分と戻って来るのに時間が掛かったな……。
衝撃から、ようやく戻って来たユニクスは、そこで猛然と抗議する形で私へと食い寄って来た。
「そもそも、何ですか? その転生魔法とやらはっ!? どうして邪神が人間に転生してしまうのですか!? どうしてリダ様とアインの遺伝子を引き継いでいるのですかっ!?……むしろ、そこは私とリダ様の遺伝を引き継ぐのが道理と言う物ではないのですかっっ!」
これでもかと言うばかりに早口で捲し立てて来るユニクス。
結局は、ユニクスからすれば私と自分の遺伝を持っていない事が、猛烈に不本意なのだろう。
なんて身勝手なヤツなんだろうか……。
「そんなの私が決めた事じゃないんだから仕方ないだろ……それに、生まれたアリンに罪はないんだ」
言って、私はアリンをギュッ! っと抱き締めた。
抱き締められたアリンは、ちょっと目を真ん丸にして驚いたみたいだったが、間もなくキャッキャッと陽気に笑って見せる。
素晴らしく私になついてるのが良く分かる光景だった。
思わず、引き寄せている我が子に頬擦りしてしまう。
もう、か~たまは、アリンなしの生活なんか考えられないぞっ!
「ああああっ! リ、リダ様っ! ど、どうして邪神相手に、そんな事が出来るのですかぁっ!」
直後、我が子を普通に愛でていた私へと、超が付く程の怒りを言霊に転換して、口から無造作に解き放って来るユニクスがいた。
……子供相手に、何をそんなに……。
ともかく、私の視点からするのなら、だ?
「ユニクスお姉……それ、ただのヤキモチだよ……」
そうと答えたのはフラウだった。
フラウは白けた顔を露骨に作った状態で『……ふぅ』とやりながら、ボディーランゲージでやれやれ……みたいな事をしていた。
他方、それはルミも同じだったらしく、
「そうだね……そもそも、今は転生して人間になってる訳だし……そんな事言ったら、ユニクスさんだって悪魔転生な訳だし……」
やっぱり呆れ眼になってフラウに同調していた。
「う、うぬぬぬぅぅぅ……」
完全にアウェイと言うか、味方が誰もいない状況である事を悟ったユニクスは、かなり不本意な顔をしつつも、唸り声を出すだけに留まった。
余談だが、この後……アリンはどうしてもユニクスだけにはなつく事がなく……しばらくは、アリンとユニクスの地味にみっともない戦いが醜く展開して行く事になるのだが、余談程度にして置こうか。
○◎●◎○
数日後。
今日も、なんて事のない当たり前の様な朝がやって来た。
正確に言うと、アリンが増えた分……私のスタンダードな日に、若干の変化が訪れていたのだが。
「か~たま。ほら、がっこ~行くお~?」
答えたアリンは、なんとウチの制服を着ている。
しかも、バッジは二学年だ。
正直、これはどう見ても無理があると本気で思ったのだが……これが、罷り通るのだから……何と言うか……私も微妙な気持ちになってしまう。
ここに関して言うのなら、やはりバアルの権威と言うか、ゴリ押しが酷い結果を生んでいた。
……もとい、バアルの言葉が全てを黙らせてしまった。
前に述べているが、バアルはこの学園の学園長へと、手違いながらも就任してしまう。
ここには、ポンテンのヤツが『意図的に手違いを起こした』様に感じる節が私にはあるのだが……そこは、まぁ……取り敢えず良しとする。
問題は、そのバアル学園長が、何を思ったのか? アリンを私のクラスメートにしてしまった事だ。
ここは、少し私も驚いてしまった。
一応、近所の保育所や施設関連等にも目を通していたんだが……バアル曰く『転生して人間になったとは言え、元は邪神なので何が起こるか分からない』為、可能な限り私の近くにいるのが無難だと言うのだ。




